新関脇琴勇輝(25=佐渡ケ嶽)が新しい「ルーティン」をなじませて初白星を挙げた。立ち合い前に「ホウッ」と叫ぶ気合入れをやめた今場所は、2日目から「シュッ」と息を吐きながらまわしをたたく動作を導入。うまく気合が入り、勢との新関脇対決を制した。大関琴奨菊が敗れたほか、平幕の全勝もなくなり、勝ちっぱなしは白鵬と鶴竜の2横綱と稀勢の里と豪栄道の2大関だけとなった。

 新しいしぐさが、ようやくスイッチを入れてくれた。最後の仕切りの直前。立ち上がった琴勇輝は1歩下がると、右手を振り上げた。口元に持っていくのか…と思いきや、振り下ろして水色の締め込みを力いっぱいたたいた。同時に口からは「シュッ」と鋭い吐息が漏れる。「ホウッ」に代わる、声にならない音。これが、新しいルーティンだった。

 「1つ気合を入れたいので、まわしをたたいています。初日は何もやらずに普通に仕切りに入ったが『う~ん』という感じだった。何かで気合を入れて、集中力を高めたかった」

 初日に負けて考えた動作。ただ、2日目はまわしを軽くたたいただけ。3日目で形になった。そして迎えた新関脇対決の4日目。持ち味の突っ張りを休むことなく出し続けて、勢を押し出した。初白星。「まわしをたたくのは稽古場でも自然としていること。気合を入れて、気持ちがこもった立ち合いができた」と、やっとリズムがかみあった。

 新関脇の船出は多難だった。番付発表の日に地元香川に帰郷した際、ぜんそくの症状が突然出た。ほとんど寝られず、稽古もできなかった。だが、ここでくじける男ではなかった。力士生命を左右すると言われた左膝の大けがに耐えたことを思えば「たいしたことない。『だから何だ』と思っている」と笑い飛ばした。

 初日から3連敗も「何回も経験している」と、ここでも笑う。4日目を終えて1勝3敗は、12勝した先場所と同じ。「いい相撲を取りきること、イコール白星だと思っている」。エンジンがかかってきた。【今村健人】