初優勝を決めていた大関豪栄道(30=境川)が、かど番では史上初の15戦全勝で、綱とりに弾みをつけた。大関琴奨菊を寄り切りで下した。全勝での初優勝は、94年名古屋の武蔵丸以来22年ぶり。日本出身力士の全勝優勝は、96年秋の貴乃花以来20年ぶり。九州場所(11月13日初日、福岡国際センター)では、大阪出身力士として1917年(大6)夏の第26代横綱大錦以来2人目の横綱昇進を狙う。

 力を出し尽くした。勝った瞬間、豪栄道はフーッと大きなため息をついた。過去に誰もいない、かど番での全勝優勝。仰天のV字回復を最高の形で締め「本当に、いい場所でした。大満足です」。初めて賜杯を抱き「重かった」と、静かにうなずいた。

 前日14日目に初優勝を決め、この日は祝賀ムードに包まれた。午前8時前に部屋に着くと、待機していたファンから「おめでとう」と声が飛ぶ。稽古場には、祝いの花が並んだ。前夜に届いたメールは200通以上。千秋楽を前に「気持ちが切れかけていた」。それでも、奮い立たせた。琴奨菊に押し込まれたが、左からのすくい投げで体勢を入れ替え、寄り切った。「持ち直して、いい相撲が取れた」。日本出身力士では、小学生時代に憧れた貴乃花以来20年ぶりに、勝ちっ放しで15日間を戦い終えた。

 さらに上の地位を狙う意味でも、大きな1勝だった。九州場所が綱とりになる豪栄道について、二所ノ関審判部長(元大関若嶋津)は「(14勝と全勝では)全然違う」と、起点としての価値に明確な差があるとした。7月の名古屋では負け越しているが、同部長は来場所の優勝に高いレベルなどの条件をつける考えについて「今のところは、ないです」と明言。九州で優勝すれば、無条件で横綱に昇進できる見通しだ。

 大阪出身力士として1930年(昭5)夏の山錦以来86年ぶりに優勝した豪栄道だが、横綱となれば99年前の17年(大6)夏に昇進した第26代横綱大錦以来2人目となる。「正直、今はあまり考えられないですけど、また来場所に向けて精いっぱい努力していきます」。11年前、入門時の目標には「横綱」と書き込んだ。今週中にも凱旋(がいせん)予定の地元大阪の熱気も力になるはず。師匠の境川親方(元小結両国)が担当部長を務める九州を盛り上げるため、豪栄道がもう1度、男になる。【木村有三】

<豪栄道の全勝優勝の記録>

 ◆日本出身力士 96年秋の貴乃花以来20年ぶり。

 ◆日本出身大関 94年九州の貴乃花以来22年ぶり。

 ◆かど番大関 2場所連続負け越しで大関陥落となった69年7月以降初めて。

 ◆大阪出身力士 1917年春、21年春の大錦(ともに10戦全勝)、30年夏の山錦(11戦全勝)に続き86年ぶり3人目(4度目)。49年夏の15日制定着後は初。

 ◆初優勝が全勝 94年名古屋の武蔵丸以来22年ぶり7人目。

 ◆大関の全勝 12年秋の日馬富士以来4年ぶり10人目(12度目)。