大関稀勢の里(30=田子ノ浦)は平幕栃ノ心に下手投げで敗れ、初優勝が絶望的となる3敗目を喫した。前日まで3日連続で横綱を倒しながら平幕力士に敗れる姿に、八角理事長(元横綱北勝海)が「昨日までのも稀勢の里。これも稀勢の里」と言うしかなかった。

 ため息が飽和した会場。やはりか…という空気がどことなく漂っていた。3横綱を連破して、逆転優勝へもしやの期待を抱かせた稀勢の里が、平幕の栃ノ心に敗れた。鶴竜に2差がつき、初優勝は絶望的に。八角理事長は「昨日までのも稀勢の里。これも稀勢の里」と残念がりながら、的確な言葉で現実を表現した。

 立ち合いは「悪くはなかった」と言う稀勢の里だが、踏み込みが甘かった。圧力が伝わらず、敗因として認めた、相手得意の右四つになってしまった。俵で懸命にこらえたが、左の上手が伸びきり、下手投げで転がった。理事長は「せっかく(横綱)3人に勝ったのだからと、勝ちたい気持ちが強かったんだろう。昨日と全然違う」と見抜いた。

 3横綱を倒す比類なき力がありながら、格下力士に負けるもろさを持つ。そんなもどかしさが同居するのが稀勢の里。「だからファンも多いんだ。『何とか頑張ってほしい』『努力して(優勝を)つかんで欲しい』という心理でしょう」。幾度となく見た「またか」の光景だけに、理事長の言葉はかえって温かかった。

 3横綱撃破の評価は高いが、来場所の綱とりに二所ノ関審判部長(元大関若嶋津)は「2差ではちょっと」と険しかった。「素質はあるし、上を狙ってほしいんだ」と言う審判部長に「稽古して努力しさえすれば、チャンスは来る」と言う理事長。励ましは続いた。

 年間勝利数で再び日馬富士に並ばれた。ため息が止まらなかった稀勢の里だが、それでも「いつか」という期待も、まだまだ持たれている。それもまた、稀勢の里だから。【今村健人】