自身初の年間最多勝に輝いた大関稀勢の里(30=田子ノ浦)にとって、来年初場所(1月8日初日、東京・両国国技館)が綱とりとなる可能性が出てきた。平幕宝富士を退けて12勝3敗。優勝した横綱鶴竜に2差がついたものの、ただ1人の優勝次点。昇進を預かる審判部の二所ノ関審判部長(元大関若嶋津)は来場所、全勝優勝などでムードをつくりだせば昇進もあり得るとした。

 全ての取組が終わった後で千秋楽の土俵に上がるのは、技能賞に輝いた11年九州以来5年ぶりだった。ただ、受け取ったトロフィーは残念ながら、天皇賜杯ではない。年間最多勝の表彰を受けた稀勢の里は「何て言ったらいいのかな。喜んでいいのか、悔しんだらいいのか、分からない感じです」。年6場所制となった58年以降、初めて優勝が1度もない中で獲得した最多勝に、戸惑いも見えた。

 とはいえ優勝がない中で、今年最後の相撲で宝富士を粘り強く寄り切り、単独での受賞を決めた。積み重ねた69個の白星は、13年の68勝を上回る自己最多。3度の綱とりに挑んだ1年を「いろいろ経験させてもらって、非常に成長できた1年だった」と振り返った。

 だからこそ、来年初場所は再び綱とりとなる可能性がある。鶴竜に2差はついたが横綱を3連破し、今年4度目の優勝次点。1年を通じて安定し、最も勝ち星を挙げた。横綱に値する力を持っていることは示した。足りないのは優勝だけ。二所ノ関審判部長は「全勝とか、そうなれば」と高いレベルで優勝した場合については綱とりを否定せず、八角理事長(元横綱北勝海)も「来場所いい成績を挙げれば、この年間最多勝は評価に値する」と話した。

 昇進へのムードが醸成されれば道は開ける。そのムードをつくり出せるかは、稀勢の里次第。審判部長は「300回くらい四股を踏め」と言い、理事長は「来年も年間最多勝を取るつもりで。大きい目標として優勝と横綱」と説いた。最強大関は綱とりには触れず「また新しい気持ちで来年に向けてやっていきたい」と己を律した。【今村健人】