1敗の大関稀勢の里(30=田子ノ浦)が“幸運な”形で単独首位を守った。対戦相手だった大関豪栄道が右足首の負傷で休場したことで、思わぬ不戦勝が転がり込んだ。13日目で1人、賜杯レースの先頭に立つのは初めて。平幕貴ノ岩と逸ノ城が敗れたため、2敗は横綱白鵬だけとなった。今日14日目に自身が逸ノ城に勝ち、結びの一番で白鵬が貴ノ岩に敗れれば、悲願の初優勝が決まる。

 相撲は取っていない。それなのに、勝ち名乗りでは大きな歓声と拍手、なかには指笛も響いた。珍しい光景。全ては、初優勝にまた1歩前進した稀勢の里へのエールにほかならない。思わぬ不戦勝で、13日目での単独首位を初めて守った。

 不戦勝は、いつも通りに汗を流した朝稽古後に知った。表情を崩すことなく、豪栄道のけがの箇所を気にして「珍しいね、頑丈なのに」と思いやった。ただ、1場所15日制が定着した49年夏以降、単独首位の力士が13日目で不戦勝を得るのは初めてだった。優勝争いが佳境に入った中で、この強い追い風。八角理事長(元横綱北勝海)は「オレに風が吹いていると、全て自分に良いように思えばいい」とプラス思考を促した。

 ハイレベルな優勝で昇進の可能性が示唆されていた今場所。ただ、2横綱2大関が休場した02年九州以来、14年ぶりに2横綱1大関が休場した。この状況は、どう判断されるのか。

 横綱審議委員会の守屋秀繁委員長は「精神的に弱いと言われているが、ここ3年くらい、持ちこたえて我慢している。精神的には強いんじゃないか」と新たな? 見解を示し、その上で「(2横綱不在は)稀勢の里は悪くない」と、判断の妨げにはならないとした。一方、審判部の友綱副部長(元関脇魁輝)は「薄いのは薄い。白鵬を倒さないと前に進まない話」とした。

 いずれにしても優勝しなければ始まらない。早ければ今日14日目にも決まる悲願。支度部屋では四股も踏まず、完全休養に充てた。残り2日間へ充電完了。「しっかり集中して、明日やるだけです」と雑念を振り払った。【今村健人】