第72代横綱稀勢の里(30=田子ノ浦)が26日、東京・江戸川区の部屋で雲竜型の土俵入りを稽古した。真新しい綱を締めて芝田山親方(元横綱大乃国)の指導を受けた。同親方は横綱昇進時、「土俵の鬼」と呼ばれた初代横綱若乃花から教わっており、その教えが引き継がれた。締めた三つぞろいの化粧まわしも、初代から借りた「鬼」の絵柄。二所ノ関一門の伝統をつくり上げた鬼の魂が伝授された。

 1つ1つの動作に鬼の魂が込められていた。二所ノ関一門の関取衆、親方衆らが見守る中で、稀勢の里は雲竜型の土俵入り稽古に臨んだ。指導を受ける芝田山親方の言葉が体に染みていく。「(初代若乃花の)二子山親方が言っていた」。一門の隆盛を築いた「土俵の鬼」の教えが、親方を通して伝わってきた。

 「親指を閉じる。指先までしっかり」「広げた手のひらは上に向ける。そうすると脇が締まる」「手の上に物が乗っているイメージでせり上がる」「二子山親方は、お客さんの拍手が上がってからせり上がれと。ゆっくり、堂々と」。

 芝田山親方は昇進時、最初は先代佐渡ケ嶽親方(元横綱琴桜)に教わっていた。だが、当時理事長代行だった初代が土俵に入り、せり上がりの実演もしてみせた。その教えが詰まった約20分間の指導。新横綱は「まだ未熟。少し形を間違えてしまった。指先まで神経が通うと美しさも変わる。全てに神経を集中してやりたい」と懸命に吸収した。

 締めたのは、55年以上も前に初代が締めていた化粧まわし。絵柄は「鬼」だった。現役時代は自らに、引退後は弟子に猛稽古を課した「土俵の鬼」がよみがえる。「そういう気持ちにならないといけないということ。そういうメッセージ」と受け継ぐ意志を示した。

 稽古前の綱打ちには約30人が集結した。琴奨菊ら一門の関取は全員いた。完成した真新しい綱は、長さ4メートル10、重さ6・4キロと歴代では軽い。それでも「ぐっと引き締まる気がした」と重みがあった。今日27日、明治神宮の奉納土俵入りで初披露する。綱を締めた姿に「見慣れない」と笑ったが、1つの夢をかなえて「その気持ちはここで終わり。また新しい歴史を刻んでいきたい」。今、新しい鬼が生まれる。【今村健人】

 指導した芝田山親方のコメント 立派な横綱ができた。格好いい。体も大きいし立派な横綱です。神事から来る大事な儀式。パフォーマンスではない。ただ形だけやればいいのではない。土俵の美にこだわりを持ってしてもらいたい。

 ◆雲竜型 四股を踏んでから腰を上げていく「せり上がり」の時、左手の先を脇腹にあて、右手はやや斜め前方に差し伸べる。攻めと守りの両方を兼ね備えた「攻防兼備の型」で、綱の結び目の輪は1つ。第10代横綱雲龍が始まりとされるが実際は第20代横綱梅ケ谷の華麗な型が基になっている。

 ◆綱打ち 横綱が土俵入りで締める綱をつくる作業。新横綱誕生時や、年3回の東京場所前に行う。横綱所属部屋だけでなく一門の力士が総出で実施。紅白のねじり鉢巻きや白手袋を着けて「ひい、ふの、み」「それ、いち、にの、さん」の掛け声で麻製の綱をよる。