4年前の春。京都に家族旅行した際、稀勢の里を見かけた。輝く金閣寺に見とれていたら反対側からお相撲さんが歩いてきた。観光中の年配の方々から握手を求められ、いつもの無表情で右手を差し出す。相撲担当を離れ4年以上もたった私は「変わらないな」と思いながら、娘たちとその光景を眺めていた。

 相撲を担当していた当時、稀勢の里は注目力士ではなかった。02年九州場所から1年間はほとんど接点なし。06年九州場所で3年ぶりに担当に戻り、若の里の朝稽古取材で鳴戸部屋にお邪魔した際にあいさつした程度だ。当時は、朝青龍が紙面のメインを飾る日が多く、相撲担当を離れる08年初場所まで自然と高砂部屋に向かう日が続いた。

 再び金閣寺。稀勢の里は私が立っていたところを通過する際に「お久しぶりです」と右手を出してきた。「おっ、元気?」。「はい」。会話はそれだけ。彼が立ち去り、2人の娘から「パパすごい。みんな握手する人がパパに握手してきた」と言われ、なんだかうれしい気分になった。宿舎に戻ってフッと思った。今日、私は稀勢の里を見かけたのではなく、会ったんだな、と。【02~03年、06~08年大相撲担当・盧載鎭】