稀勢の里が信念を貫くのは馬券を買う時も同じだった。12年秋巡業中の週末。新聞を開きながら競馬の天皇賞・秋の話題になった。話すうちに「あまり買わないけど、せっかくなので馬券買ってもらっていいですか」となった。買ったのは上位3頭を着順通りに当てる3連単。エイシンフラッシュを1着、ルーラーシップを2着に固定し、3着にフェノーメノとトーセンジョーダン。5000円の2点買いで合計1万円という、豪快な買い方。元競馬担当記者の助言として「ルーラーはスタートが遅いので3着かもしれません」と言うと「なるほど。いや、ここはこのままで。当たったら中洲で豪遊ですね」とぶれなかった。

 結果は1着エイシン、2着フェノーメノ、3着ルーラーで惜しくも外れ。3連単の払戻金は3万9000円。2、3着が入れ替わっていれば約200万円を手にしたはずだった。レース後、稀勢の里から電話が来た。取り逃した馬券を悔いるのかと思いきや「エイシン強かったですね!」と勝ち馬をたたえ、損したことをとやかく言わないのは実に気持ち良かった。【11~12年大相撲担当・高橋悟史】