「なりたいよね」。稀勢の里が横綱昇進への意欲を具体的に言葉にしたことがあった。14年4月30日、田子ノ浦部屋の上がり座敷。春場所で横綱昇進を決めた鶴竜が、巡業後に稽古を休んだことを伝え聞いた時、「横綱になると、いろいろ大変なんだろうね。そんな経験してみたいよね。なりたいよね」と言った。

 理由も聞いた。「発言力が出てくるしね」。当時は日本相撲協会が新たな試みで、ファンの距離を縮めようとしていた。直前の巡業では公募した男性と関取が対戦する演出があった。碧山のまげをはたいたり、顔を張ったり…。マナーに対する疑問の声も上がった。

 「力士がいろいろなことをやりすぎかもしれない。お姫様抱っこだって、遠藤がかわいそうな時もある。『やって』と言われたら断れない。やらなかったら感じ悪いと思われてしまう。言葉は悪いけれど、力士はちょっと話しかけにくいくらいの方がいい。相撲の厳格さ、格式とか、築いてきた先人にも失礼。こんなことも横綱が言うのと、大関が言うのとは違う」。

 新たな試みを否定するわけではないが、大相撲を軽く見られたくはない。そんな新横綱の発言力に期待したい。【13~14年大相撲担当・鎌田直秀】