最年少関取で東前頭13枚目の貴景勝(20=貴乃花)が、平幕の宇良(24)を下した。入門以来の対戦成績を5戦5勝とし、宇良キラーぶりを発揮した。兵庫県芦屋市出身だがハングリー精神はたっぷり。全勝は新横綱稀勢の里と関脇高安だけと荒れる春場所で、貴乃花親方(元横綱)が育てた最初の日本人関取が輝きを見せた。

 芦屋の暴れん坊が業師を圧倒した。貴景勝は、中に入ろうとする宇良に、徹底して突き押しで応戦。左右に動いて好機をうかがう相手についていき、休むことなく腕を伸ばして押し出した。入門後、宇良とは5戦負けなし。「やりやすいとは思ってない。たまたまなんです。気持ちだけです」と淡々と話した。

 父一哉さん(54)が「お金に困ったことがない」と言うほどの、いわゆる「芦屋のお坊ちゃん」だが、ハングリー精神旺盛。幼少期は、関西屈指の高級住宅地にある幼稚園に通った。「3歳から年長の部屋に勝手に入って、勝手に暴れ回っていたんですよ。暴れて暴れて、どうしようもなかった」と手を焼いた。怪獣映画や仮面ライダーが好きで背丈が同じぐらいの草があれば、蹴ったりして遊んでいたという。

 中学の世界ジュニアの試合では、国境の壁を越えて闘志をむき出しにした。ブラジルの選手に肘打ちを食らうと、食事の時にその選手に「お前こら、なめんなよ」と日本語でまくしたてた。寮生活だった高校では「焼き肉に行きたい」と親に支援を頼んでも「友達におごってもらえ」と小遣いを1度ももらえずに過ごした。「お坊ちゃん」のイメージとは程遠かった。

 中3の時は周りに稽古相手がいなく、出稽古先の関学大で当時大学1年だった宇良と出会った。「かなりやりましたね」と振り返り「やりづらいと思わせるのが相手の力」と熟知していた。誰もが警戒する業師を前にしても動じない肝っ玉の強さが、宇良キラーの秘策だったのかもしれない。【佐々木隆史】