西前頭10枚目の栃煌山(30=春日野)が、自己最速の11日目で10勝目を挙げた。平幕千代の国を取り直しの末に破り、1敗を守った。左膝や腰を痛めて7年ぶりに前頭2桁台まで転落したが、大関候補といわれた底力を発揮。12年夏の旭天鵬以来の平幕優勝へ、全勝で単独トップに立った新横綱稀勢の里を追走する。

 慌てなかった。左に動いた千代の国に戸惑うことなく、栃煌山はもろ差しから一気に寄り切った。取り直しの末につかんだ15年名古屋以来10場所ぶりの10勝目。「2回目はしっかり腰も入ったし、良かった。相手の張り手も見えた。良かった」。課題の立ち合いにも満足して、自己最速11日目で白星が2桁に到達した。

 新入幕の春から丸10年。三役常連として激闘を続け大関候補といわれた男の体は、悲鳴を上げていた。腰、左膝に痛みが出て、先場所まで3場所連続で負け越し。今場所の番付は10年初場所(東10枚目)以来7年ぶりに前頭2桁台まで転落した。

 巻き返しへ、まずは体を整えた。「けがごとに合う治療がありますから」と全国を回った。東京では、部屋付きの親方衆に紹介された“デカハリ治療”もした。「10センチくらいのを刺してもらう。拷問や」と笑うが「楽にはなった」。まわしを締める位置も、3センチほど高くした。「先場所までは腹がまわしの上に乗って、背中が反って腰に負担があった」。今場所は、へそが隠れる位置でまわしを締め、好結果につなげている。

 12年夏には優勝した旭天鵬との決定戦も経験した実力者だけに、八角理事長(元横綱北勝海)も「一番気楽な立場。決定戦もやってるし、優勝の雰囲気を分かっている」と期待する。今月9日で30歳になった栃煌山は、稀勢の里や豪栄道らと同世代。新横綱を「尊敬している。すごい」と言いつつ「でも、やっぱり悔しい気持ちが大きい」。勝負師としての本心を集中力に変え、優勝争いに食らいつく。【木村有三】