上体を起こされ、もろ差しを許すと、下がりながら左から振る。その直後から顔がゆがんだ。寄り倒されて、転げ落ちて土俵下に打ちつけたのも左肩から。すぐに左胸を押さえ、土俵に戻ることもできなかった。

 12連勝で止まった以上に大きな代償。支度部屋で応急的に触診した医師の「音がしたか」の問いにうなずき「動かない。動かすと痛みがあって怖い」と漏らした。医師は「外れている感じでも、骨が折れている感じでもない。『外れた』とも『切れた』とも言っていなかった」と説明した。肩か、それとも大胸筋か。新横綱は三角巾で患部を固定し、氷で冷却。午後6時19分に救急車に乗り込んだ。問いかけにも無言だった。

 大阪市内の搬送先の病院に駆けつけた師匠の田子ノ浦親方(元前頭隆の鶴)は負傷箇所について「テレビで見たようなところ」と左肩から胸付近を指して「まだ場所があるので」と詳細は明かさなかった。鶴竜と対戦する14日目の出場についても「今日は様子を見る。明日、相談して決めたい」と話すにとどめた。

 単独トップで新横綱優勝も見えてきた矢先。朝には先代師匠の隆の里だけが成し得た新横綱全勝優勝に向けて「1日1日、しっかり力を出し切ることが大事」と話していた。そこからの暗転。八角理事長は「緊張感のある中で痛がるんだから、よほどだろう。軽傷であってほしい」と願った。【今村健人】

 ◆稀勢の里のけが 綱とりだった14年初場所12日目の琴欧洲戦で敗れた際に右足親指を負傷。「右母趾(ぼし)MP関節靱帯(じんたい)損傷で約3週間の安静加療」と診断され、7勝7敗で迎えた千秋楽を休場して負け越した。02年春場所の初土俵から初めての休場で通算連続出場は953回で途切れ、14年春場所は初めてのかど番となった。これまで稀勢の里の休場はこの1日だけ。