家族愛をパワーに変えて、関取復帰を目指す相撲巧者のベテランが、3連勝で場所を締めくくった。既に3場所ぶりの勝ち越しを決めている東幕下28枚目の豊ノ島(34=時津風)が、4勝2敗で迎えた今場所最後の7番相撲で、西幕下26枚目の寺尾(30=錣山)と対戦。上手出し投げで破り5勝2敗で今場所を終えた。

 幕内上位を張り続けてきた、ベテランらしい相撲だった。得意の左を差し、右の上手も「いいところを取れた」と十分。苦し紛れに相手が投げを打ったところで、頭をつけさらに優位な体勢を作った。じれた寺尾が左から下手投げを打つと、右の腰を密着させながら右上手からの出し投げで勝負を決めた。

 「腰を入れた投げの返し方なんか、うまいと思った。技術だと。狙ったわけではないけど、いい感じにね」と経験値を生かした一番を振り返った。そう話すように、ケガの回復とともに相撲勘も「今まで(幕内上位で)できた動きは完璧にはできないけど、徐々に慣らしていけば」と3つの勝ち越しという数字とともに、感覚的にも手応えをつかみつつある2年ぶりの名古屋場所になった。

 土俵に上がると、普段は聞こえない歓声の中で、自分のしこ名を大声で叫ぶ子供の声が聞こえた。「勝ち越しを決めた後の相撲で余裕があったからなのか『トヨノシマ!』っていう声が聞こえたんですね。娘の声だったから、何とか頑張らなければと思った」。沙帆夫人とともに、この3連勝を会場で見届けた5歳の長女希歩ちゃんの声だった。帰り際には、その家族と手をつなぎながら会場を後にした豊ノ島。「今場所も引退しなくて、悪いね」と報道陣に、ちゃめっ気たっぷりにジョークを飛ばす余裕も。引退なんぞ、何年も先のことになりそうだ。