西前頭3枚目の千代大龍(28=九重)が、1敗だった平幕阿武咲を首位から引きずり下ろした。立ち合いの強烈な張り手から突っ張って、はたき込み。勝利をもたらす“もみあげ”とともに自らは2敗を守った。

 これぞ千代大龍だった。右から強烈に張って、かち上げから5発。だが、突き切る気持ちは最初からない。取組前に見た、千代丸が阿武咲に5連勝した動画と同じ形。「思い切り張って、かち上げて、突いて、引く。完璧です」。クラクラする阿武咲の横を、涼しい顔で闊歩(かっぽ)した。

 かつて上位を震え上がらせた強さは、14年秋場所の新小結を最後に低迷してきた。3年間も。それは「遊んでいたから。幕内筆頭も16枚目も、給料は一緒。このままでもいいかと…」。

 目覚めは3月。師匠の九重親方(元大関千代大海)に言われた。上位で取る千代の国と千代翔馬を指して「うらやましくないと思うなら辞めた方がいい」。すっと胸に落ちた。「素直にうらやましいと思った」。朝4時からジムへ行き、その足で稽古に行ったことも。無理して1キロの肉を食べ続け、体重は自己最高190キロに増やした。立ち合いの破壊力を一層、磨いた。

 顔にはもみあげが伸びる。「大阪のファンが『もみあげを伸ばした方が勝ち越しが多い』と教えてくれました。嫁には『汚いから切れ』と言われるけど、子どもの幼稚園の行事までは切りません」。参加できる行事は年内はない。目覚めの春から3場所続く勝ち越し。もみあげも白星も、まだまだ伸びる。【今村健人】