西前頭3枚目の千代大龍(28=九重)が、平幕の勝ち越し1号となった。「素直にうれしいです。番付は下がることはないので、あとは自分らしい相撲をノビノビ取れれば満足です」と気分よく話した。

 奇襲だった。かち上げやもろ手が多かった立ち合いで、まさかの左上手狙い。「取った瞬間に、横から崩したかった」。だが、すぐにがっぷり四つに組まれてしまった。しかも、形は栃ノ心の得意とする右四つ。誰もが万事休すと思った。しかし、ノッている男は何かが違う。怪力栃ノ心の引きつけをものともせず、反対に自らの腹に乗せてつり上げた。どよめく館内。「そんなに足は上がってないと思いますよ」と涼しい顔で振り返ったが、一気に前に出た。最後は俵で粘る相手の胸を突いて押し出し。「内容は良くないけど、勝ち越したんで、結果オーライでしょう」と喜んだ。

 取組後は、念願だったNHKのインタビュー室に久しぶりに呼ばれた。日体大時代に学生横綱に輝いたときも、横綱と初めて対戦したときも「全く緊張しなかった。相撲で緊張したことはない。人生で1番緊張したのは、マージャンで大四喜(ダイスーシー)をテンパったとき」という強心臓の持ち主が「久しぶりで緊張しました」とうそぶいた。それだけうれしい勝ち越しでもあった。

 10日目での勝ち越しは、前頭6枚目だった13年九州場所以来4年ぶりの早さ。ただ、前頭3枚目以内での勝ち越しは自身初めてだった。しかも、3月の春場所から4場所連続の勝ち越しで、トップを走る大関豪栄道をただ1人、1差で追走する。だが「顔じゃない(分不相応)」といつもの言葉を並べて「優勝なんて夢のまた夢」と意に介さない。その強調される無欲さが、怖い。