再起を目指す横綱が初日からエンジンを吹かした。大相撲の秋巡業が5日、千葉・八千代市で始まり秋場所の全休を含め3場所連続休場の横綱稀勢の里(31=田子ノ浦)が、いきなり稽古土俵に立った。役力士でただ1人、土俵に入ると新入幕の秋場所で敢闘賞を受賞した平幕の朝乃山(高砂)と17番(15勝2敗)。「巡業初日に合わせてきた」と話す通りの動きで、周囲の不安を一掃した。

 相撲ファンの気をもませる横綱が、会場の空気を一新させた。稽古場に姿を見せた稀勢の里は、5分後には土俵に上がり約20分、申し合い稽古する関取衆へにらみを利かせるように黙々と四股を踏んだ。土俵から下りると今度は、すり足や付け人相手に痛めた左上腕付近の感覚を確かめるように曲げ伸ばし。そして40分後。満を持して再び土俵に上がると、朝乃山を三番稽古の相手に指名した。

 懸念される左は、けんか四つの相手に固められながら、巻き返すように差し、右の上手も引いての寄り。時に下がりながらの突き、左からすくっての投げなど「いろいろなことを想定した」取り口だった。約20分で15勝。「自分の自慢はそこしかないから」とスタミナ面の不安も拭い去った。

 秋場所前の連合稽古以来となる関取との稽古。朝乃山を指名した理由を「体もデカいし力もありそう」と説明。「初日に間に合わせようという気持ちで調整して巡業に来た。元気よくやっていた昔を思い出した。秋巡業は、いい巡業になることが多い」と表情も明るかった。

 大関時代の昨年秋巡業もスタートから千代の国を相手に連日、稽古を積んだ。2日目以降、朝乃山を指名するかを問われ「若いから物足りないんじゃない? 1日寝れば回復する。どっちがギブアップするかだ」とニヤリ。実りの秋へ、まずは視界良好のスタートとなった。【渡辺佳彦】