稀勢の里がいよいよ背水の陣へと追い込まれた。新横綱優勝を遂げた3月の春場所は13日目に左上腕などを負傷し、強行出場の末に奇跡を起こした。裏を返せば、在位5場所は万全の体調で15日間を一度も務め上げていないことになる。

 悲願の初優勝と同時に最高位をつかんだ翌場所で、全てが暗転した。稀勢の里の相撲の軸となる左腕にけがを負い「一つの故障で全体のバランスが崩れ、負の連鎖に陥った」と何度も漏らす。左足首痛から腰痛と新たなけがを誘発。今場所の負け方からは下半身の衰えがうかがえ、引退に近い力士の典型ともいえる。

 昇進後は横綱の重みを強く意識してきた。「土俵入りの意味、綱を締める尊さを考えると、本当に奥が深い」と話す。この考えが逆に重圧となり、相手を受け止める「横綱相撲」に固執。逸ノ城に負けて星が五分に戻った今場所8日目の夜「横綱という地位に構えすぎた自分がいた。(本名の)萩原で取っていたころのように、しゃにむに前へ出るべきだ」と自らを省みた。

 左腕の負傷が問題ないのなら、今後は下半身を徹底的にいじめ抜いた上で、阿武咲、貴景勝ら勢いのある若手との妥協なき稽古と攻めの姿勢が復活への鍵となる。土俵人生の岐路に立った稀勢の里。不器用ながら愚直に歩んできた生きざまが、今こそ試されている。