元横綱日馬富士関による傷害事件の被害者の西十両12枚目貴ノ岩(28=貴乃花)が、横綱白鵬の内弟子の新十両炎鵬を寄り切り、3勝2敗で序盤戦を終えた。師匠の貴乃花親方(元横綱)はこの日初めて役員室に姿を現したが、約3分で退室。自身の取組を会場内で見守られなかったが、我慢の相撲で連敗を止めた。

 取組を終えて支度部屋に戻った貴ノ岩が、言葉に力を込めた。「毎日全力でやっている。一生懸命やっているので、勝ち負けは別に」。傷害事件の影響により、昨年九州場所から2場所連続全休。ただ、言い訳することもなく、ブランクを感じさせない相撲で土俵の上に立ち続けている。

 我慢の相撲だった。169センチ、95キロの小兵に、立ち合いでもぐられて前みつを取られた。相手の得意な形。しかし、肩越しから右上手を取って相手の動きを封じた。頭を左手で押さえながら、上手投げを狙うも決まらない。互いに攻めあぐねたが力を振り絞り、右上手を引いて相手の上体を起こして寄り切った。「流れです」と、一連の攻防を淡々と振り返った。

 この日は場所中の朝稽古を初めて休んだ。貴乃花親方は「疲れというよりも症状があるから。予断を許さないところ。無理はさせられない」と説明。それでも貴ノ岩は15日間取り切る思いで「もっといい相撲を取りたい」と前を見据えた。

 連敗を2で止めて、序盤戦は白星先行だ。師匠からは「思い切りやるということだけ」とアドバイスをもらっている。土俵勘は「少しずつ慣れると思う」と、さらに調子を上げていく。千秋楽まで土俵の上に立ち続けるという目標に向かって、ひたすら走り続ける。【佐々木隆史】