大関昇進を目指す関脇栃ノ心(30=春日野)が横綱白鵬を寄り切り、12連勝を決めた。過去25戦全敗の天敵を自慢の右四つで攻めたて、悲願の初白星をもぎ取った。横綱を倒して、直近3場所の合計白星を「36」としたことで、昇進は事実上の当確。単独トップも守った。年6場所が定着した58年(昭33)以降初となる、昇進直近3場所で優勝2度の快挙も射程圏内に入った。

 力勝負だ。まわしをがっちり右四つで引き、全身の筋肉を総動員した。栃ノ心が、腰を落とす白鵬を持ち上げようと、何度も背伸びし、つま先立ちになった。最後は力ずくだ。右手でのど輪を決め、土俵外に押し出した。「最高ですね」。それしかない。08年九州場所の初顔合わせから10年。25戦25敗の天敵に勝った。白鵬を破り、最近3場所の合計白星は「36」。大関の座は、もう間違いない。

 師匠の春日野親方(元関脇栃乃和歌)のおっつけを見習った。大横綱千代の富士の顔、体形、すべてが「かっこいい」と憧れた。多くの先輩力士を見習ってきたが、一番手本にした力士を問われて「白鵬関かな」と答える。「速い。スピードがある。『ああなりたいな』と思った」-。

 全敗の過去を「弱いから。弱いからだよ」と説明する。「最初の頃かな。1度、電車道で吹っ飛ばされたことがある。土俵下に審判で(師匠の春日野)親方がいてね」。何番か惜しい取組はあった。同じ右四つ。得意の左上手で何度もまわしを引いたが、負けた。「白鵬関は上手切るのうまいから」。この日は違った。立ち合いから左上手でまわしを引いた。工夫した。切られにくい、浅めの位置を守った。2度切られかけ、耐え抜いた。

 前夜はうなぎのひつまぶし2人前、いくら、うに、かに入りの海鮮丼、宅配ピザのMサイズにマンゴーアイスをペロリと平らげ、ただ1人勝ちっ放しの12連勝。残り3日。白鵬を2差に突き放し、1敗は鶴竜だけ。初場所に続く2度目の優勝も射程圏内に入った。「あと3日あるからね」と平静を装うが、初優勝後の口癖は「もう1回、優勝したいな。できるかな」-。歴史を変えた白星から、歓喜のゴールへ一直線だ。【加藤裕一】