横綱稀勢の里(32=田子ノ浦)が、いよいよ引退の崖っぷちに立たされた。西前頭筆頭の逸ノ城にはたき込まれ、金星配給とともに初日から2連敗。昨年9月の秋場所千秋楽から、途中休場した同11月の九州場所と合わせて足かけ3場所で7連敗。貴乃花と並ぶ横綱としてはワーストタイの不名誉な記録となった。師匠の田子ノ浦親方(元前頭隆の鶴)は取組後、今日3日目の東前頭筆頭栃煌山戦も出場させる意向を示した。

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背中から落ちた稀勢の里は、土俵を1回転した後に動けなくなった。がっくりとうつむいたまま数秒間、動けなかった。右脚は土俵下、両手で上半身を支えるのがやっとという体勢で、逸ノ城に見下ろされた。進退を懸けた場所で連敗スタート。2日目にして金星まで配給した。支度部屋に戻ると、報道陣の問いかけに無言だったが、験直しを意味する髪を洗い、3日目の出場意欲をのぞかせた。

立ち合いが3度も合わなかった。1度目は稀勢の里が手つき不十分。2、3度目は逸ノ城がつっかけた。得意の左四つにこだわりすぎて対策された、初日の御嶽海戦とは異なり、突き放して前に出た。だが幕内最重量226キロの逸ノ城にいなされ、素早く体勢を入れ替えられると、後手に回り、あっさりとはたき込まれた。逸ノ城にはこれで4連敗。2日連続で横綱の意地すら見せられなかった。

田子ノ浦親方は、打ち出し後に部屋に戻ると「(稀勢の里は)いつもやっているケアをしている。もちろん出るつもり」と、3日目も出場の意向を代弁した。引退となれば師弟での話し合いは不可欠だが、その予定は「今のところない」と断言した。

これで3場所にわたって計7連敗(不戦敗を除く)となった。99年名古屋場所から九州場所まで、同じく足かけ3場所で記録した貴乃花と並ぶワーストタイ。不戦敗を含む連敗としても、不戦敗1度の貴乃花と、同2度の照国、北の富士と並ぶ歴代最長タイとなった。

初日から4連敗(不戦敗を除く)した九州場所後、史上初めて横綱審議委員会(横審)から「激励」を決議され、今場所が進退場所の位置づけとなった。その横審の北村委員長は初日に「場所を全うできるのか不安になる」と話したが、それが現実味を帯び始めた。

前日初日の打ち出し後は都内のホテルで行われた、好角家による会合に出席した。「いつも応援ありがとうございます」などとあいさつ。和やかな雰囲気だったが、期待はひしひしと感じている。4日目には出身の茨城・牛久市の郷土後援会が90人余りで応援ツアーを予定。このまま引退に追い込まれれば、主役不在のツアーとなる。そうした積み重ねも少しずつ焦りを誘う。崖っぷちに立たされた稀勢の里に、決断の時が迫っている。【高田文太】