関脇玉鷲(34=片男波)が涙の初優勝だ。遠藤を突き落とし、ただ1人2敗を守って逃げ切った。34歳2カ月での初優勝は、年6場所制となった1958年以降で2番目の年長。初土俵から90場所は史上4位のスロー記録となった。

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気は優しくて力持ち-。「お相撲さん」のイメージ通りの言動が、玉鷲の最大の魅力だ。11年3月の東日本大震災を受けて、同6月に相撲協会が行った被災地巡回慰問での姿が印象的だった。被害の大きかった岩手・陸前高田市の高田小を訪れた際には、率先して子どもと触れ合った。そんな様子を写真に収めようとすると、4人の女の子を同時に抱きかかえ「あと2人は一緒に抱っこできるよ」とサービスのポーズ。そこで終わらず、子どもの抱っこを繰り返した。気付けば周囲には老若男女で人垣ができ、笑顔があふれていた。

一昨年11月の九州場所では、九州北部豪雨の被災者を思い、取組後に涙も見せた。同場所で片男波部屋が宿舎を構えるのは福岡・朝倉市。同市は観測史上最大級の雨量で30人を超える犠牲者が出た。その8年前から地元のイベントに参加するなど市民と交流を続け、行く先々で「勝ち越し」を約束。その約束を守ることができて目を赤くした。場所後、協会で同市を慰問した際には、横綱、大関よりも人だかりができていた。

同様の現象は昨年12月、福岡・行橋市での巡業でも起きた。地元の幼稚園に数年前から訪れており、朝稽古中は2階席の幼稚園児が大合唱で声援。ダントツの人気だった。「お客さんが『今日見に来てよかった』という相撲を取りたい」が口癖。一期一会を大切に、出会った人はことごとく玉鷲を好きになる。けがした対戦相手を思って涙したこともあった。誰よりも人の痛みに寄り添う優しすぎる男の優勝は、競争が激しい相撲界で、快挙といえる。【高田文太】