今年1月の初場所で現役を引退した元横綱稀勢の里の引退、年寄荒磯(33=田子ノ浦)の襲名披露大相撲が29日、東京・両国国技館に満員となる約1万人の観衆を集めて開催された。断髪式では関係者約300人がはさみを入れた。

長年、好敵手として戦ってきた横綱白鵬(34=宮城野)も断髪式の最終盤に、はさみを入れた。最後に師匠の田子ノ浦親方(元前頭隆の鶴)が止めばさみを入れ大銀杏(おおいちょう)が切り落とされるまでを、西の花道で見届けた白鵬は「いよいよって感じだね。十分、戦いましたから」と支度部屋で語った。歴戦のライバルが次々と引退することに「どんどん、対戦相手だった人がいなくなっていくのは寂しい」。

既に荒磯親方が引退してから8カ月以上がたつが、やはり現役時代のことが頭をよぎる。「(自分と)同じ右四つだったら、すんなり69連勝できたんだろうね。(稀勢の里は左四つで)けんか四つだったから、その形を磨いて、お互い相手の形にさせまいとしてね。ライバルとして外せない存在だった」と認めた。

その言葉通り、一番の思い出は「63連勝でしょう」と即答。双葉山の持つ不滅の69連勝を目指し、63連勝で臨んだ10年九州場所2日目。東前頭筆頭の稀勢の里に寄り切られ、連勝記録は歴代2位で途絶えた。相四つだったら負けなかったのでは-。痛恨の黒星と引き換えに、得たものを無駄にはしなかった。「あれがあるから今がある。(連勝記録を)達成していたら、ここまで来れなかった」。その後、稀勢の里には再び大型連勝を「43」で止められたこともあったが、足かけ13年の対戦で44勝16敗。力の差は見せつけた。一人横綱から3人、そして稀勢の里の昇進で4横綱時代も築き、気がつけば鶴竜と2人に。第一人者の座は長らく渡さないで踏ん張り続ける。

自らの引き際が近いことも悟っている。そうなれば弟子を育てる第2の相撲人生=親方業が待っている。そこでの“再戦”にも思いをはせて白鵬は言う。「今度は(荒磯親方と自分が親方になった時の)弟子同士で戦わせる。自分たちは十分やった。また違った勝負をして相撲道に恩返しできればね。そうなると関取を育てないといけない。役力士、横綱・大関を育てる。どっちが先に横綱を育てるか? いいね。勝負したいね」。ライバル物語には続きがある。