史上初の無観客開催の場所は横綱白鵬(35=宮城野)が、44回目の優勝で締めた。横綱鶴竜との相星決戦を寄り切りで制し、昨年九州場所以来の優勝で最多記録を更新した。

簡略化された表彰式は全幕内力士が参加し、優勝パレードもない。年6場所の1958年(昭33)以降、3番目の年長となる35歳0カ月の優勝にも白鵬に笑顔はなく「喜ぶより無事に終わってホッとした」と本音をもらした。

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途中で打ち切られる可能性もあった場所を横綱白鵬が鎮めた。鶴竜との千秋楽相星決戦。激しい攻防を寄り切りで制した。取組後はNHKのインタビュー室に直行。荒い呼吸で「もうこれで終わったなという感じですね」と吐き出した。

史上初の無観客開催。異例の場所だからこそ、横綱の責務は重く、孤独にもがいた。「初日に想像以上のもの、不思議な感覚がありましたし、気持ちの持ち方は厳しいものがあった。浮き沈みが激しかった」。初日から9連勝と独走状態から一転、2敗してトップの座も失った。2敗目を喫した12日目から3日連続、取材エリアを無言で通り過ぎた。観客がいない。声が聞こえない15日間。「喜ぶというより、無事に終わった、ホッとしたのが先ですね」は心からの本音だった。

表彰式は協会あいさつの後、全幕内力士が残った中で簡略化されて行われた。その中で特別な思いをかみしめた。「(15日間戦い抜いたのが)大きなことと思う。(八角)理事長のあいさつにもあったが、一つになればできるということ。大相撲が元気にして引っ張ったというか、一つの例として残ると思う」。スポーツを含むイベントの自粛ムードの中、やり終えたことを誇り「世界的に安心、安全が戻った時に喜びはわいてくる」と言った。

35歳0カ月の優勝は年6場所制以降3番目の年長で、横綱では過去に千代の富士しかいない。「あこがれの大横綱ですからね。自分が飲みたい、食べたいものを減らしながら、体と心が一致しないと成し遂げられない」。優勝回数は44回となった。不滅の金字塔に思えるが、白鵬は場所前のイベントで記録に触れている。「記録というのは破られるもの。いつか抜かれたら、その人とお酒飲みたいね」。その日を楽しみにしながら、記録の壁をさらに高く積み上げていく。【実藤健一】

◆白鵬の異例場所V 野球賭博問題でNHKの大相撲中継がなかった10年名古屋場所、八百長問題で通常開催できなかった11年技量審査場所、元横綱日馬富士の暴行問題で揺れた17年九州場所など。全勝優勝した10年名古屋場所は賜杯を辞退していたため、受け取れずに涙を流した。