せめてもの願いはコロナ禍に打ち砕かれた。日本相撲協会は17日の理事会で、元関脇豊ノ島(36=時津風)の引退及び年寄井筒の襲名を承認した。今後は部屋付き親方として後進の指導にあたる。

幕内在位71場所中に三役を13場所務め、三賞も10回受賞。168センチの小兵ながら差し身のうまさでもろ差しを得意とし、相撲巧者として活躍したが力尽きた。

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関取復帰をかけた無観客開催だった3月の春場所。東幕下2枚目で2勝5敗と負け越し再十両の可能性が消えた豊ノ島は「幕下で負け越して1つの決断をする時なのかなという思いはある」と話していた。心中は九分九厘、引退に傾いていたが父親の顔で「あとは娘との闘いかな」とも。千秋楽から1週間後に帰京し沙帆夫人、7歳の長女希歩ちゃんに引き際を告げた。

一度は引退の腹を決めていた。東十両11枚目で臨んだ1月の初場所。4勝11敗と負け越し2度目の幕下陥落が決定的となった千秋楽に「体がボロボロだから」と家族に打ち明けた。だが幕下で無給生活になることを幼心に感じていた希歩ちゃんの「普通のお父さんになるのはイヤ! 私がお金を貸してあげるから」と泣き叫ぶ姿もあって翻意。同時に「本当に最後になるんだったら、この子に最後の姿を見せないといけない。でも、それをしてないじゃないか」という思いを明かしていた。

負け越したら引退、そうなっても家族や親を大阪に呼んで最後の姿を見せられる-。そんな現役生活最後の望みは、新型コロナウイルスの影響による無観客開催で消された。白星目前で逆転の小手投げを食らい3敗目を喫した、5番相撲の魁との一番で衰えを痛感。腹をくくった瞬間だった。

返り入幕の10年九州場所では、14勝1敗で並んだ横綱白鵬との優勝決定戦にも出た。思い出の相撲にその一番と、琴奨菊が優勝した16年初場所で僚友にとったりで勝った一番を挙げた。アキレス腱(けん)を断裂し16年九州場所では約12年ぶりに幕下に陥落したが、不屈の闘志で2年後に関取復帰。18年間の角界生活を「長かったような短かったような。もう終わったという感じ」と振り返った。コロナ禍で会見も出来ず代表電話取材となったが「悔いはありません」と恨み節はかけらもなかった。【渡辺佳彦】

◆豊ノ島(とよのしま、本名・梶原大樹)1983年(昭58)6月26日、高知県宿毛市生まれ。168センチ、157キロ。宿毛高から02年初場所初土俵。04年夏場所で新十両、同年秋場所で新入幕、07年夏場所では新三役の小結に昇進。通算成績は703勝641敗68休、金星4個。各段優勝は序ノ口1回、序二段1回、十両2回。