コロナ禍により大相撲夏場所が中止になり、本場所開催まで待ち遠しい日々が続きます。そんな中、日刊スポーツでは「大相撲夏場所プレイバック」と題し、初日予定だった5月24日から15日間、平成以降の夏場所の名勝負や歴史的出来事、話題などを各日ごとにお届けします。13日目は、記録達成でスター誕生の瞬間です。

<大相撲夏場所プレイバック>◇13日目◇1989年5月19日◇東京・両国国技館

数々の史上最年少記録を塗り替えてきた、のちの「平成の大横綱」貴乃花が、最初の若年記録を打ち立てた記念日となった。

初めて番付にしこ名が載った88年夏場所の序ノ口から、わずか1年。所要6場所で初めて東48枚目の番付で幕下に上がった貴花田が、快進撃で白星を重ねる。全勝同士で優勝をかけた最後の7番相撲も、宮田(のち前頭龍興山=出羽海)を寄り倒し7戦全勝。柏戸(元横綱)が持つ17歳6カ月の記録を更新する、16歳9カ月での史上最年少幕下優勝を遂げた。右78キロ、左80キロで当時の横綱大乃国をも上回る握力で、前みつを引き猪突(ちょとつ)猛進の攻めで制した。

1面を飾った本紙の写真と見出しが、スピードスターぶりを絶妙に表現している。貴花田が両国から中野の部屋に戻る電車移動。途中、御茶ノ水駅で各駅止まりの総武線から中央線快速に乗り換え。その写真にかぶせて「御茶ノ水で乗り換え『関取快速』だね」の見出し。写真の絵解きも「自分の出世に合わせるように『特別快速』に乗り換えた」とある。

その予見が現実のものとなる。2場所後の同年秋場所。西幕下9枚目で再び7戦全勝優勝し新十両昇進が決定。今度は史上最年少関取の座をものにした。その後も新入幕、初金星、幕内優勝、年間最多勝、大関昇進、全勝優勝…と次々に最年少記録を更新。親の七光など通じない世界で兄若花田(のち横綱3代目若乃花)とともに、父で師匠の藤島親方(元大関貴ノ花、のち二子山親方)の背中を追った貴花田。空前の相撲フィーバーを呼んだ、快進撃の始まりがこの日だった。