大相撲の高砂部屋で、7月場所中にまわしが窃盗される事件が起きたことが13日までに明らかになった。

高砂部屋関係者によると事件が起きたのは7月場所2日目の同20日で、盗まれたのは幕下寺沢(25=高砂)の稽古まわし。東京・墨田区の部屋で裏口のブロック塀に干していたが、路地に止まった軽トラックの運転手に持ち去られた。目撃した部屋の近隣住民によると40~50代の男性とみられ、部屋は被害届を出しているが、いまだに犯人は見つからないという。

事件が起きたのは午後2時ごろで、寺沢は相撲を取る日ではなかったが大関朝乃山の付け人として場所入りしていた。盗まれたことは支度部屋で知り、その日のうちに行司を通じて約8000円の新しい稽古まわしを購入。立て替えた代金は後におかみさんが支払ってくれたという。寺沢は翌3日目に割が組まれていたが、緊急事態のため4日目に変更された。

稽古まわしとともに、愛するペットの遺骨も盗まれた。寺沢はまわしの折り目に、7歳のときに死去した雄のうさぎ「ラルキー」の遺骨が入ったお守りを忍ばせていた。アマチュア時代から必ずまわしにそのお守りを入れていたため、寺沢は非常にショックを受けていたという。精神面の動揺からか、寺沢は7月場所を3勝4敗で負け越した。

事件後、警察が親方の自宅がある部屋の3階に上がり、監視カメラを確認。盗まれたのは一瞬の出来事で、映像では犯人の顔は鮮明には分からなかったという。塀には4、5本の稽古まわしが干されていたが、中央に干していた寺沢のものが狙われた。同部屋の松田哲博マネジャー(元三段目一ノ矢)は「入門して40年近いが(まわしが盗まれることは)記憶にない」と驚きを隠さなかった。

◆寺沢樹(てらさわ・いつき)本名同じ。1995年(平7)6月22日、新潟県佐渡市生まれ。金沢市立工高から東洋大を経て18年春場所初土俵。腰痛の影響で序ノ口デビューから4場所連続で休場したが、19年春場所で序ノ口優勝。同年名古屋場所で三段目優勝。最高位は20年初場所の東幕下15枚目で、20年7月場所は東幕下38枚目。182センチ、123キロ。得意は突き、押し。

◆力士の稽古まわし 木綿でできており、十両以上の関取は白、幕下以下は黒のまわしを締める。稽古まわしは師匠が死んだとき以外は基本的に洗わないとされてきたが、近年はデッキブラシなどで洗濯することもある。黒まわしは1メートル1000円前後。関取は本場所や巡業の取組では、稽古まわしとは違う絹の「締め込み」を着用するが、幕下以下は本場所の取組でも稽古まわしで土俵に上がる。