大相撲7月場所限りで現役を引退した元十両希善龍の亀井貴司さん(35)が14日、電話取材に応じ、引退後の心境を明かした。東京・墨田区の木瀬部屋での断髪式は16日に行う予定で「まだまげを切っていないので不思議な感じ。次の場所の番付を気にしない安心感はありますね。今はホッとしています」と、柔らかい口調だった。

日大出身で08年春場所に本名「亀井」のしこ名で初土俵を踏んだ。右四つ、左上手投げを武器に13年夏場所で新十両に昇進した。

関取での勝ち越しは1度も果たせなかったが、挑戦し続けた現役生活に胸を張った。9度の十両昇進、9度の幕下陥落はいずれも史上最多の記録。それでも「十両に上がれずに辞めていった人もいる。1回も勝ち越せなかったのは悔しいが、恥ずかしい記録じゃない。常に勝ち越して上を目指そうという気持ちだった」と振り返る。何度跳ね返されても、諦めない姿勢は貫いた。

引退は昨年夏場所から考え始めた。17年秋場所で左膝前十字靱帯(じんたい)を損傷。その後、場所中に膝が外れることが何度もあり「放って置いて治るような感じではなかった」と、膝の状態が悪化したことが引退の決め手となった。新型コロナウイルス感染拡大の影響で夏場所が中止となり、モチベーションを維持する難しさも「正直ありました」と吐露する。

現役最後の一番は、代名詞の左上手投げで締めくくった。東幕下8枚目だった7月場所は6番相撲で負け越しが決まったが、千秋楽の7番相撲で、過去3戦3敗と合い口の悪い十両経験者の朝玉勢を破った。4カ月ぶりに観客が入った本場所で、千秋楽の幕下最後の取組。「少し運命的な感じがしましたね。5月で引退した人もいる。お客さんの前で相撲を取れたことは本当に良かった。最後に自分の相撲が取れたと思う」。師匠の木瀬親方(元前頭肥後ノ海)には「自分のかたちになればまだ取れるのに」と惜しまれたという。

20日にも地元香川に戻る。コロナ禍のためしばらくは県内のホテルに滞在し、PCR検査で陰性となれば善通寺市の実家に戻る。今後の仕事は正式に決まっていないが、仕事がない日は小学校の同級生が同市に開いた相撲クラブで小、中学生を指導する予定。「地元の子どもたちに相撲を教えたいという気持ちが昔からあった」。香川の子どもたちに、不屈の土俵人生を伝えていく。【佐藤礼征】