業師の西前頭6枚目宇良(29=木瀬)が、珍手で会場を沸かせた。西前頭4枚目大栄翔の背中を取って、豪快な送りつり出しを決めて2勝目。幕内では05年九州場所で横綱朝青龍が決めて以来16年ぶりの大技を繰り出した。序盤戦を終えて無傷の5連勝とした新横綱照ノ富士と同じように、ケガから復活してきた男が本領を発揮した。

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宇良劇場の開幕だ。突き押し自慢の大栄翔の突きを前に、簡単には潜り込めない。低い姿勢で我慢していると、絶好の好機が訪れた。大栄翔が体勢を崩し、背中からがっちりと抱きついて盤石な体勢。流れで土俵際を背にする格好になるも慌てない。抱きかかえるようにしながら豪快につって、反転しながら土俵外へ運んだ。決まり手は16年ぶりの送りつり出し。01年初場所で新設されて以来、幕内では3度目の大技に観客の拍手も鳴りやまなかった。

観客が大興奮の大技も、宇良の内心は冷や冷やだった。「背中についた時にちょっと焦った。あそこからの勝負が1番危ないので」。実はこの日、幕下の土俵で同じような取組があった。海士の島が宇良と同じように大日堂の背中を取ったが、まさかのつきひざで逆転負け。その一番を会場入り前に動画で見ていたといい「それが一瞬頭によぎった。その後は流れでした」と嫌なイメージがあったというが決めきった。

十両時代の17年初場所では、55年夏場所に日本相撲協会が決まり手を発表するようになって以降、十両以上では初となる「たすき反り」を決めた他、居反りや後ろもたれなどの珍手を決めてきた。新たな珍手が加わり「1個増えたっすかね。うれしいですね」と笑顔を弾けさせた。両膝の負傷で一時は序二段にまで番付を落としたが、不屈の精神で名古屋場所で再入幕。似た境遇の照ノ富士が新横綱場所を引っ張る中、負けじと存在感を出した。

序盤戦を終えて、2勝3敗と黒星が先行している。大技を決めても「残りも頑張りたいです」と短い言葉で意気込みを語るのも宇良らしさ。中盤戦以降も宇良らしいハツラツとした相撲で、さらに会場を沸かせて2場所連続の勝ち越しを目指す。【佐々木隆史】

◆送りつり出し 01年初場所から新設された12の決まり手の1つ。幕内では、04年秋場所で東前頭14枚目琴欧洲が東前頭10枚目普天王に、05年九州場所で横綱朝青龍が西前頭5枚目安馬に決めて以来3度目。相手の後ろに回り、相手の体を持ち上げてそのまま土俵へ出す決まり手。

▽幕内後半戦の高田川審判長(元関脇安芸乃島) 宇良は今日はいい相撲だった。圧力負けしないように低く低く、そして柔らかい。持ち上げて力強く。盛り上げてくれた。横綱(照ノ富士)は自分の体勢になるまでじっくりと我慢した。石橋をたたいて渡るというか。霧馬山もいい形になったけど力及ばずという感じ。