大関貴景勝(25=常盤山)が、史上初となる3連敗発進からのかど番脱出を果たした。西前頭5枚目宝富士を押し出して、勝ち越しを決める8勝目。現行のかど番制度となった1969年名古屋場所以降、初日から3連敗を喫しながらかど番を脱出するのは初めて。1敗で単独先頭を走っていた横綱照ノ富士が敗れたため、優勝争いは混戦模様。他力ながら4敗の貴景勝にもチャンスがある。

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序盤は大関陥落も心配された貴景勝が、今では最も勢いづいているかもしれない。3連敗発進したのが一転、7日目から破竹の6連勝。宝富士の左差しを封じながらいなしで崩し、3発で土俵外に持っていった。「実力がなければ負け越す。結果が全て。できることは集中することしかない」。自らを奮い立たせるように、言葉に力を込めた。

日を追うごとに、本来の馬力が戻ってきた。先場所は2日目に首を痛めて途中休場。序盤戦は調整不足も感じさせる相撲内容が続いた中で、現役時代は同じ押し相撲だった師匠の常盤山親方(元小結隆三杉)は信じていた。「貴景勝は気持ちが強い。1勝すれば波に乗れるはず」。4日目に初日を出すと、相撲勘を取り戻すように調子を上げてきた。

母校・埼玉栄高相撲部の山田道紀監督は今場所、毎日のように貴景勝に電話をかけ励ましてきたという。「今場所は勝ち越しだけでいい。首も万全にして、また来場所から横綱を目指してほしい」と山田監督。恩師の言葉にも後押しされながら、協会の看板と呼ばれる地位を守った。

優勝争いは混戦模様で、他力ながら2差の貴景勝にも優勝の芽が出てきた。「4敗しているので優勝とか、本当はそう考える立場ではない」と現状を認識した上で、はっきりと意欲を口にした。「可能性がある以上は一生懸命目指さないといけない」。連敗発進から優勝すれば史上初。試練を乗り越えた25歳は、千秋楽まで全力を尽くす。【佐藤礼征】