白鵬の功績はいくつもある。記録上の実績は言うまでもない。45回の優勝は分かりやすいが、最も抜かれにくいのは51場所連続2桁勝利ではないだろうか。8年以上休場することなく、安定的に10勝以上を果たすことなど想像できない。私が相撲担当だった時期には、輪島の優勝回数を超え、双葉山の連勝記録に近づいた。そのたびに、先人に光が当たり、深く知るきっかけをつくってくれた。

白鵬を通じて、大相撲とは何か考えさせられる機会も多かった。かち上げは肘打ちなのか。肘打ちは反則なのか。なぜ審判批判はご法度なのか。ならば、なぜ審判は第3者でなく親方が担当するのか。優勝インタビューの時に万歳三唱をしてはいけないのはなぜか。なぜ日本国籍がないと親方になれないのか。大相撲には明文化されていないことも多いが、そのあいまいさが魅力の1つでもある。相撲史にも詳しく聡明(そうめい)な白鵬が物議を醸すたび、モンゴル出身の青年の胸の内に思いをはせた。

八百長問題や東日本大震災の後、一人横綱として角界を支えた功労者でもある。子供のための相撲大会「白鵬杯」で裾野を広げた功績も大きい。近年は功罪の「罪」が注目されることが増えたが、人間的魅力は変わりがない。何年も前になるが、酒席は1度だけ同席したことがある。ここには書けないほど盛り上がった。

直感で相撲を取っていたわけでないから、動きを言語化することもうまく、指導者としても一流になるだろう。親方としても、いずれは頂点=理事長を目指すのだろうか。白鵬にしか見えていないことも多い。その知名度や実績は協会の財産だ。生かすも殺すも、本人及び周囲の親方衆にかかっている。【佐々木一郎】