大相撲の年寄「間垣」を襲名した元横綱白鵬が1日、東京・両国国技館で引退会見を行い、思い出の取組を2番挙げた。1番は横綱朝青龍から獲得した初金星。もう1番は、連勝を「63」で止められた稀勢の里戦だった。初金星となった2004年九州場所11日目、当時平幕だった白鵬が横綱朝青龍に勝った時の記事を復刻版として掲載します。

   ◇   ◇   ◇

<大相撲九州場所>◇11日目◇2004年11月24日◇福岡国際センター

19歳の怪物・白鵬(宮城野)が、初土俵から史上最短23場所目での初優勝を視界にとらえた。10連勝の横綱朝青龍(24=高砂)の突っ張りを凌ぎ、土俵際で逆転の送り出し。1敗で優勝争いのトップタイに躍り出た。貴花田(現貴乃花親方)の18歳9カ月に次ぐ、史上2位の19歳8カ月の若さで初金星も獲得。前日23日には綱取りの大関魁皇を破り、今日12日目の千代大海に勝てば、横綱・大関総なめの快挙だ。魁皇は露鵬を下して2敗を堅守。綱とりへ望みをつないだ。

 

白鵬が新時代の幕開けを告げる大金星をつかんだ。相手は今年5場所中4場所優勝と全盛期に入った最強横綱。それでも急成長の大器は、前日の魁皇に続いて朝青龍を撃破した。先場所の初対戦は、デビュー以来の夢だった。でも、この日の対戦は「夢じゃなく、楽しみだった」。座布団が乱舞し、観客が驚き興奮する中、白鵬は喜びをかみしめながら、どこまでも冷静だった。がむしゃらさが呼んだ番狂わせではない。堂々と狙っての勝利だった。

狙ったまわしはつかめなかった。朝青龍の強烈なもろ手突き、突っ張りで一気に土俵際へ追い込まれた。それでも、懐の深さと上体の柔らかさで、踏みとどまる。右張り手で、口内を裂傷、鮮血も飛び散った。しかし、頭は冷静だった。再び土俵を背にしながら、「最後はうまくたぐれた」と、横綱の突き出した右腕をたぐり、送り出し。「恩返しができました」。同じモンゴル人として公私ともに世話になった大先輩に手をさしのべ、土俵へ引っ張り上げた。横綱からは手を払われた。後輩からライバルへと昇格した瞬間だった。

師匠の熊ケ谷親方は「32年の大相撲人生で、見たことも聞いたこともない逸材」と話す。入門テスト受験で初来日した4年前。誰も見向きもしなかった68キロのやせっぽちは、2倍以上の147キロにまで成長。体格面だけではない。ビデオ研究は、自分のものだけでなく千代の富士(現九重親方)、貴乃花ら歴代の大横綱のもチェック。けいこで実践した。「普通1、2年は要する技術を1、2週間で会得する。すべてが天性だ」(同親方)。

貴花田、朝青龍の24場所を抜く、23場所での史上最速初Vが見えてきた。北の湖理事長は「大関候補の1人」とまで断言。予想できる最短は来年春場所。そうなれば貴花田の20歳5カ月を抜く、史上最年少20歳0カ月での大関もあり得る。記録も実力も、周囲の予想をはるかに上回るスピードで、怪物が快進撃を続ける。

○…朝青龍は今場所初の金星配給にも、顔は穏やかだった。白鵬を2度土俵際に追い込みながら、とどめのひと突きをかわされて送り出され、土俵下に突っ込んだ。支度部屋では「攻めてやろうという気持ちになりすぎた。すべてこっちが悪い。もっと見て行けば」と素直に反省。年間80勝と今年3度目の全勝優勝は消えたが、サバサバと敗戦を振り返った。「それより明日。(若の里には)2場所負けてるからな」と早くも気持ちを切り替えていた。