元大関琴奨菊の秀ノ山親方(38)が、10月1日に東京・両国国技館で引退相撲を開催する。5月30日からチケットの販売が始まった。インタビューの後編は、親方としての指導の現状などについて聞いた。【取材・構成=佐々木一郎】

-朝稽古でまわしは締めていますか

秀ノ山親方 締めています。半年くらい前に琴勝峰と(相撲を取る)稽古をしたんですよ。それまではどっこいどっこいだったんですが、3番連続で電車道でもっていかれた。それで稽古はやめておこうと。それからは、胸を出すだけになりました。あらためて力士って毎日稽古して体を鍛えて、その積み重ねは本当にものすごいんだなと思いました。

-琴ノ若の成長はいかがですか

秀ノ山親方 琴ノ若ともやったんですけど、天性のやわらかさで吸い込まれます。白鵬関に近いんですよ。むちゃくちゃ分が悪くて、若とやっても感覚が合わないなと思って。勝峰はがつっとくるので、自分もやりやすい。若は本当に強いですよ。

-あの2人が佐渡ケ嶽部屋を引っ張っていかないといけません

秀ノ山親方 2人だけでなく、関取では琴恵光も頑張っています。自分が優勝した時に付け人についてくれていて、恵光は「あの時があったから頑張れています」と言ってくれている。恵光がしっかり、みんなのバランスを取りながらやってくれています。

-関取衆に具体的なアドバイスはしますか

秀ノ山親方 一時期、むちゃくちゃ(助言を)したんですよ。でも、ちょっと勝峰が低迷して、苦しい時期や結果が出ない時期も、自分の感覚を取っちゃいけないなと思って、あまり言わなくなりました。仕切り方とか、その前の気持ちの持っていき方とかは言って、相撲は好きにするようにと伝えました。

-技術面を言っていた時期があったということですか

秀ノ山親方 そう。でも、人それぞれ、身長も体重も違う。取り口も違う。いくら言っても感覚が伝わらなかった。なので、ベースとなる部分は、稽古して地力を上げるしかない。勝峰は今回(夏場所)6勝9敗。持っているものを考えると、もっと上位で戦わないとおかしいんですけど、気持ちの作り方が弱いことなど、自分で気付かないといけません。

-琴ノ若と琴勝峰は稽古場ではどちらの分がいいですか

秀ノ山親方 稽古場では勝峰も結構よくて5分、6-4くらいで若ですが、いい勝負をするんですよ。勝峰は自分以上に才能があるし、努力もするので、あとは本人の力で自分の強みを知ってもらったらどんどん強くなる。

-佐渡ケ嶽部屋から優勝力士出る可能性は

秀ノ山親方 近いんじゃないですか。若を含めて。若は感覚がすごくいいんです。一緒にトレーニングをしていても、感覚が違ったらやめたりとか。

-どういうことですか

秀ノ山親方 一緒にトレーニングをしていた時のことです。重い重量を持ってやっていたんですけど、若は相手をさばくような取り口なので、それはいらないなと思ったら、次の日からやらないとか。勝峰はまじめにやるんですけど、相撲に生かせない。もっと自分を感じてやってくれたらいい。

-指導の試行錯誤はありますか

秀ノ山親方 ありますね。自分はもう1回振り出しに戻りまして、ぶつかり稽古って本当に大事だなと思っています。兄弟子が胸を出してくれて、いつ終わるかわからないという永遠のぶつかり稽古でメンタルも鍛えられるし、力を出さなければ転がされるし。相撲のバランスが取れて、気持ちも強くなっていく。あらためてぶつかり稽古の大事さを感じました。

-理不尽な稽古はもうやらない時代。力士をどう頑張らせますか

秀ノ山親方 環境作りが大切だと思います。例えば、時間調整の稽古ではなくて、気合が入ったらもうすぐ終わるとか。わくわくしたまま「終われ」と言われたら、各自でトレーニングもするし、体を動かすと思うので、そういう指導の方が今の子たちは伸びる。昔はいやでもやらされて強くなったんですけど、今は気持ちが折れちゃうので、そこはちょっといいところの1歩前で終わらせて、あとはトレーニングをさせます。自分からやる環境だとどんどん強くなると思います。

-今、体重は

秀ノ山親方 170キロあります。引退相撲までやせられないんですよ(笑い)。最大で190キロありました。引退相撲にあんまり小さくなって出るのもあれなので…。食べる量はあんまり変わりません。

-最後に、引退相撲を待っているファンに向けてメッセージを

秀ノ山親方 多くの方の支えがあったからこそ、現役時代を乗り越えることができました。最後の大銀杏(おおいちょう)姿も多くの方に見ていただいて、来場者の方にも思い出に残る断髪式にしていきたいです。

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