高校相撲の強豪、埼玉栄高相撲部員が21日、さいたま市の大宮西警察署を訪れ、同署から感謝状を贈られた。感謝状を贈られたのは同校相撲部の高山瞬佑さん(3年)、根岸康介さん(3年)、鶴叶翔さん(3年)、伊賀慎之助さん(2年)の4人。4人は同署に行方不明届が出されていた小5の男の子を保護し、同署まで送り届けた。行方不明者の発見、保護功労として感謝状が贈られた。エースで副キャプテンの高山さんは「(子どもが無事で)安心しました。ドキドキしました」と安堵(あんど)の様子だった。

事の発端は16日の午後8時半頃。部活動での稽古が終わり、高山さんと伊賀さんが相撲道場近くの公園で自主トレーニングに励んでいる最中だった。あたりはすっかり暗くなっていたが、1人で歩いている男の子を発見。高山さんは「こんな時間におかしいな」と、男の子のまわりに大人が誰もいなかったことに異変を感じて声をかけた。男の子1人だったことを確認しひとまず、近くの相撲道場に男の子を連れて行ったという。

相撲道場に到着すると、自主トレーニングに取りかかろうとしていた根岸さんと鶴さんに遭遇した。話し合いをした結果、男の子を近くの大宮西警察署に送り届けることにしたという。すっかり暗くなり、そして雨が降り始めた。相撲道場から警察署まで約2キロ。根岸さんらはエースの高山さんを寮に帰らせた。26日から高知県で開催されるインターハイ。体調不良や新型コロナ感染により、エースを欠場させてはいけないと気遣った。高山さんをのぞく3人で歩いて署まで送り届けた。

相撲道場に傘は1本しかなかった。根岸さんは「僕らは体がでかいので」と苦笑い。根岸さんら3人は雨に打たれながら、男の子に傘を差してあげた。男の子は午前中から家を出ており、一日中何も口にしておらず空腹だったという。そこで署に行くまでの道中でコンビニに寄り、根岸さんが自分のお小遣いから600円分のおにぎりやお菓子を買って与えたという。男の子が不安がらないように、兄弟話や好きなゲームの話を聞いたりして和ませた。そして無事、男の子を大宮西警察署まで送り届けた。

この男の子には、その日の午前中に家族から行方不明届が出ていた。大宮西警察署の署員は、埼玉栄高相撲部員が男の子を連れてきた時の様子について「署についた時には男の子ともすごく明るい雰囲気でした」と振り返った。

その後、ずぶぬれで寮に戻った3人を見た山田道紀監督は当初、事情を知らずに怒ってしまったという。「もうすぐインハイがある、それにコロナ感染にも気を付けないといけない。気をもんでいる時にぬれて帰ってきたもんですから」と山田監督。ただ、その後に事情を聴いて一部納得したが「それでもコンビニにまず行って警察に連絡してもらうとか、他にも対処法はあったかもしれない」と指導したという。

一方、教え子の取った今回の行動に「やっぱりうれしいですよ。こうやって1人の子どもに何もなかった訳ですから。ましてや自分のお小遣いでご飯まで食べさせて」と目を細めた。さらにうれしかったのは「先に帰れと言ったことですよね」と、根岸さんらがエースの高山さんを先に寮に戻らせたことだった。

現在、寮には中学生も含めて27人が共同生活を送っているという。山田監督は「中1の子もいるから高校生も下の子の扱いになれているんですよ」と寮生活が今回の保護につながったとも推測した。厳しい稽古に励みながらも、共同生活で人とのつながり方も磨く。高山さん、根岸さん、鶴さんは将来的に角界入りを見据えているという。高山さんは「周りの人から好かれる、手本になる力士になりたいです」と胸をはった。今回の気持ちを忘れなければ、理想の力士に近づけるはずだ。

◆埼玉栄高相撲部 ’88年に日大出身の山田道紀監督(56)が赴任。92年の高校選手権で優勝するなど、90年代に入り全国の強豪に成長した。高校横綱の元前頭栃栄(現三保ケ関親方)が93年初場所で初土俵を踏んで以降、角界には多くの力士を輩出している。

◆埼玉栄高相撲部出身の主な大相撲力士 現役で大関貴景勝、関脇大栄翔、前頭琴ノ若、翔猿、北勝富士、琴勝峰、妙義龍、剣翔、王鵬と幕内42人中9人が占める一大勢力。十両にも英乃海、武将山、北の若、矢後、豪ノ山と5人がいる。現在は幕下の明瀬山、常幸龍も幕内経験者。元大関豪栄道の武隈親方、元小結豊真将の立田川親方、元前頭大翔山の追手風親方、元前頭栃栄の三保ケ関親方もOB。今年の参議院選挙に出馬した元関脇追風海の斉藤直飛人さんも同校出身。