首都圏で5日間開催された大相撲の夏巡業が14日に幕を閉じた。コロナ禍前の19年12月以来、2年8カ月ぶりの巡業開催。東北を中心に22日間開催された19年の夏巡業から期間は大幅に短縮され、開催地も首都圏に絞られた。各地で盛り上がりをみせたが、仕方がないとはいえ、どこか物寂しさは拭えなかった。

巡業の最大の魅力といえば、力士とファンの距離感だろう。幕内、十両の関取約70人らが参加。本場所中には決して見せることのない、リラックスした状態で会場内の至るところで体を動かしている。ファンが気軽に声を掛けることができる。そして、ほとんどの力士が気さくに対応する。即席の記念撮影会や握手会が行われたり、サインを書いたり談笑したりすることもある。関取衆が子どもたちと相撲を取る定番の「ちびっ子相撲」も見せ場の1つ。しかし、それも全てコロナ禍前の姿で、今回は見られなかった。

この巡業で日本相撲協会巡業部は、感染拡大予防の観点から非接触型のファンサービスを掲げた。5日の初日、東京・立川市巡業で力士らに訓示を行い、ファンとの握手などの接触は避けるよう指示。代替策として、関取衆との写真撮影会の場所を設けた。また、子どもからの質問コーナーも設けた。大関御嶽海や関脇若隆景らが質問に答えるなどし、ファンらの笑いや興味を誘った。

感染予防のため原則、参加する関取は幕内力士だけとした。付け人も1関取につき1人。稽古は力士5、6人を1組とし、土俵上で稽古している次の組までしか土俵下で稽古ができず、会場内の力士数は従来よりも少なかった。会場内には柵を用いた力士専用の動線が作られるなど、姿は見えども本来の距離感ではなかった。

それでも、力士らはファンとの距離を取りながらの写真撮影やサインに応じるなど、感染予防に気を使いつつ精いっぱい、思い思いのファンサービスで対応した。横綱照ノ富士が巡業初日に「やっぱりファンがいての大相撲。協会員の1人としてその責任を果たすため、自分も楽しめるように巡業を頑張っていきたい」と話した通り、大勢のファンの笑顔は印象的だった。

入間川巡業副部長(元関脇栃司)は、本来のファンサービスが実施できなかったことに心苦しさをのぞかせつつ、「写真撮影会と子どもからの質問が唯一、ファンと身近になる時間になったのでよかった」と手応えを口にした。9月の秋場所(11日初日、東京・両国国技館)後の10月には、首都圏で6日間の秋巡業が予定されている。入間川巡業副部長は「考え方や行動は変わらない。(コロナに)うつらない、うつさないを第一にやっていく」と同様の開催方法になる見込みだ。できる限りのファンサービスで各巡業を盛り上げようとする力士の思い、巡業部の手腕に注目が集まる。【相撲担当=佐々木隆史】