東前頭13枚目の琴勝峰(23=佐渡ケ嶽)が、結びでの相星決戦で埼玉栄高の先輩、大関貴景勝(26=常盤山部屋)に敗れ、初優勝を逃した。

あと1歩届かなかった。立ち合いは左を固めて頭からぶつかった。圧力のある埼玉栄高の先輩に真っ向勝負を挑んだが、上体を起こされた。それでも前に出て狙い通りに距離を詰めたが、左からのすくい投げで土俵に転がった。「実力不足だなと感じた。もっと鍛えてもっと強くなりたい」。189センチ、163キロ。次代を担う大器が挑んだ初めての優勝争いは、収穫と課題が山積だった。

父の手計(てばかり)学さんは、現在も週6日はジム通いというボディービルダー。千葉・柏市で居酒屋も営む父に、幼少期から鍛えてもらった。幼稚園で始めた琴勝峰から半年遅れで、学さんは相撲も始めた。四股や股割りを日課に器具などを使わず、一緒に鍛えた。ほどなく、琴勝峰の怪力が目立つようになった。親戚の家で勢いよく足を伸ばすと風呂に穴が開き、階段の手すりに引っかけたタオルを引っ張っると、手すりの方が抜けたりした。

相撲を始めたのは「基礎体力をつけるため」(学さん)だという。ここまでの開花は予想していなかった。千秋楽翌日の23日は学さん58歳の誕生日。「十両優勝した去年は、千秋楽と誕生日が重なった。今年も、と思ったら欲張りですね」。初の三賞となる敢闘賞受賞も含め、健闘をたたえられた。

1場所15日制が定着した1949年(昭24)夏場所以降、千秋楽の相星決戦に平幕が挑むのは史上初だった。琴勝峰は「いつもの取組とは雰囲気が違った。気持ちの強さを出された」と、大関の気迫を痛感した。筋肉のスペシャリストに育てられた体に、心の成長が追いつけば初優勝は遠くない。そう思わせる場所になった。【高田文太】