2月4日に台北市内で行われた、48グループの海外姉妹グループTPE48の最終オーディションを取材した。

 11年に結成が発表されてから、紆余(うよ)曲折を経て7年。今年、ようやく劇場公演やCDデビューなど、活動が本格化する。

 イベントは、最終審査まで残った70人が会場の客席に座り、合格者として場内スクリーンに名前が表示された候補生が、壇上で感想を語る形式で行われた。さながら、AKB48の選抜総選挙のような演出だった。

 名前が次々と呼ばれていく。小山美玲さん、藤井麻由さん、台湾との二重国籍を持つ本田柚萱さんと、3人の日本人も、合格者に名を連ねた。しばらくして、司会者が「合格者は以上です」と告げた。残酷だが、これも勝負の世界の宿命だ。壇上の合格者は歓喜の涙を、残された不合格者は悲しみの涙を流した。しかし、1人だけ、他とはまったく違う行動を起こした不合格者がいた。

 高雄市出身の蘇文幔さんは、自分たちの不合格を告げられた瞬間、辺りを見回して席を立った。泣きじゃくる不合格者たちを慰めに回ったのだ。頭をなでたり、言葉で励ましたり、ハグしたり…。ステージで喜びを語る合格者たちとは、対照的な姿だった。蘇さんは4人ほどに声を掛けただろうか。その光景は、合格者へインタビューが終わり、場内が暗転し、サプライズ発表が流れるまで続いた。

 自分の夢が破れた瞬間、周りを気づかって動くなんて、大人でもなかなかできないことだ。しかも、蘇さんの年齢を聞いて驚いた。15歳。元AKB48秋元才加を思わせる大人びた風貌や、この行動からは、想像も付かない若さだった。

 蘇さんは発表前、記者がカメラを向けると、笑顔のピースで応じ、周囲をリラックスさせていた。ダンスが得意で、オーディションでは、クラシックバレエやヒップホップなど、ダンス力でアピールしたが、合格には至らなかった。実は15年に行われたAKB48の台湾メンバーオーディションも受験しており、こちらも不合格だった。あるスタッフは「自分が不合格になった経験があるから、あの状況でああいう行動ができたんでしょうね。本当に仲間思いの子です」と感心していた。

 勝者にも、敗者にもドラマがある。48グループを長く見ていると、より敗者の方に肩入れしてしまう。気づくと、ずっと蘇さんを目で追っていた。仲間たちを慰めているうちに、蘇さんの目にも涙が浮かんできた。仲間たちへの同情の涙か、自分に対しての涙だったのか。心中を聞くタイミングもなく、蘇さんは会場を後にしていた。

 蘇さんは今、人知れず、悔し涙を流しているかもしれない。それでも、いつかまた立ち上がって、夢に向かって歩き始めるだろう。彼女の次の「ドラマ」が、ハッピーエンドになることを、遠く離れた日本から期待している。