ストーリー

　東京で写真家として成功した猛は母の一周忌で久しぶりに帰郷し、実家に残り父親と暮らしている兄の稔、幼なじみの智恵子との３人で近くの渓谷に足をのばすことにする。懐かしい場所にはしゃぐ稔。稔のいない所で、猛と一緒に東京へ行くと言い出す智恵子。だが渓谷にかかった吊り橋から流れの激しい渓流へ、智恵子が落下してしまう。その時そばにいたのは、稔ひとりだった。

　事故だったのか、事件なのか。

　裁判が始められるが、次第にこれまでとは違う一面を見せるようになる兄を前にして猛の心はゆれていく。

　やがて猛が選択した行為は、誰もが思いもよらないことだった－。

イントロダクション

　主人公である弟・猛に、近年の活躍著しいオダギリジョー。クールな外見から一転、内面の感情をさらけ出し、兄と自分の真実の姿に惑う心の「ゆれ」を繊細に演じ切った。これまで見たことのなかった役者オダギリジョーの力量を堪能し、その姿に改めて魅了される。そして兄・稔を演じるのは日本映画界を代表する実力派、香川照之。笑顔の奥に閉じ込めていた深い内面を目線ひとつ、背中ひとつで表現して観る者を圧倒する。

　ふたりの兄弟の間でゆれる智恵子を演じたのは映画や舞台の話題作への出演がつづく真木よう子。諦念と希望と不安が交差するその表情が忘れられない。さらに兄弟をつなぐキーパーソンとして強い印象を残す新井浩文、流暢な口調とポーカーフェイスで独特の味を出す検察官にキム兄こと木村祐一など、作品に深みとユーモアを添える個性派俳優陣がそれぞれの場面を引き締めていく絶妙なキャスティングだ。

　監督は、長編デビュー作「蛇イチゴ」で脚本の巧みさと新人離れした演出の才を発揮、日本映画界の期待を集める存在に躍り出た西川美和。オリジナル脚本を貫く姿勢は洋邦問わず原作ものが目立つ映画界にとって貴重な存在だ。本作では再び兄弟を軸に据えながら対照的な２人の内面のさまざまな「ゆれ」を深く掘り下げ、普遍的な人間ドラマを奥行きのあるスケール感とともに作り上げた。また、「誰も知らない」の是枝裕和監督も前作に続き企画に参加している。

　失ってしまったもの、取り戻すことのできないもの。その痛み、そしてささやかな願い－。深い洞察力とともに人間の感情に迫り、心を揺さぶる本年度必見の１本がここに完成した。

上映劇場