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作品紹介

愛の予感

出演
小林政広、渡辺真起子
監督・脚本
小林政広
配給
バイオダイド
上映時間
1時間42分
公開日
11月24日(土)、ポレポレ東中野ほか全国順次公開
愛の予感のメーン写真

ストーリー

愛の予感の写真1

 東京湾岸に広がる、高層マンション群。埋立地にあるこの新興住宅地は、中流所得層にとって、あこがれの住居だ。一方、運河をはさんだ、対岸には、低所得層者が暮らす、都営住宅が、連なっている。順一は、新聞社で働く、高層マンションの住人。妻は、ガンで、数年前に亡くなり、今は、娘との2人暮しである。

 ある日、事件が起こった。娘が、学校の教室で、同級生の女の子に、刺し殺されたのだ。

 妻を失った順一は、続いて、娘も失い、生きる希望を、なくす。新聞社をやめ、引きこもりの生活を続けていた順一は、1年後、北海道に、肉体労働の職を得る。順一は、収容所のような民宿で、寝泊りし、毎日、夜明けに起きて、鉄工所へと向かい、働く。帰宅すると、日没とほぼ同時に、眠りにつくのだ。

 そんな順一は、民宿で賄いの仕事をしている女、典子と出会う。典子は、順一の娘を殺した子の母親だった。典子もまた、身を隠すように、北海道のへき地でひっそりと生活を営んでいたのだ。被害者の親と、加害者の親が、偶然にも顔を合わせた。2人は、毎日顔を合わせるものの、互いを名乗ることもなく、言葉を交わすこともない。それでも、順一は、原罪を背負ったかのように生きている典子が、次第に、かけがえのない存在になっていく。ある日、順一は、コンビニで、プリペイドの携帯電話を2台買い、1台を、典子に渡す。それが順一にとっての、愛情表現であったのだ。

 しかし、頑なに、他者を排除して生きていた典子は、それを突き返す。そして、順一を徹底的に拒絶する。ところが、典子は、順一を拒絶すればするほど、自分の内部で、何かが変わってきていることに気付き始める。乾ききった典子の心に、次第に、潤いがただよう。今度は、典子が、コンビニで、携帯電話を2台買い、その1台を、順一に渡す。しかし、順一は、その携帯電話を、屑篭に捨ててしまう。2人は、心を通わすことが出来るのだろうか…? 2人の間に、愛は、芽生えるのだろうか…?

 「あなたなしでは、生きられない。でも、あなたと一緒では、生きていく資格がない」。

イントロダクション

愛の予感の写真2

 14歳の少女が、同級生の少女を、刺殺した。これは事件の被害者の父と加害者の母との、その後の再生の物語だ。事件の記憶から、そして世間から逃れようと、東京を離れた2人は、ある地方都市で、再び出会うことになる。望まざる邂逅。しかし、そこで芽生えた感情は、憎しみや後ろ暗さだけではなかった。魂と魂が触れあい、孤独と孤独が擦れ合うとき。摩擦が熱を生むようにして…。監督は、インディペンデントでありながら「バッシング」(06年)など4度カンヌ国際映画祭へと作品を送り出している小林政広。そんな彼が最新作に選んだテーマは、「愛」。いや、その「予感」だ。それも、眼を逸らしたくなるほど鋭利な、激情としての、「愛の予感」。小林政広はある決断をした。悔恨と絶望に苛まれながら、孤独に生きる被害者の父・順一を存在そのものの深みにおいて表現するため、自らの身体をカメラの前に立たせる。そして、共演者に選ばれたのは、「殯の森」(第60回カンヌ国際映画祭審査員特別賞)に出演、国際的評価も高い女優渡辺真起子。順一と同じ絶望に加え、決して消えない罪悪感とともに生きる、加害者の母・典子に、明確な輪郭を与えている。絶望の中で奇跡的に生まれつつある、ある美しい感情についての記録―。それがこの映画、「愛の予感」である。

 スイスで行われるロカルノ国際映画祭はカンヌ、ベネチア、ベルリンの3大映画祭に次ぐ権威ある国際映画祭。過去、最高賞である金豹賞を受賞した作品には、ジム・ジャームッシュ監督「ストレンジャー・ザン・パラダイス」、スタンリー・キューブリック監督「非情の罠」、ミケランジェロ・アントニオーニ監督「さすらい」といった不朽の名作が名を連ねる。そして、60年を記念する今年は日本から唯一コンペ部門に出品された「愛の予感」が受賞した。同映画祭での日本人監督のグランプリ受賞は、61年の市川崑監督「野火」、70年の実相寺昭雄監督「無常」以来、実に37年ぶりとなる快挙だ。さらに、本作はCICAE賞(国際芸術映画評論連盟賞)、ヤング審査員賞、そして、昨年他界したスイスが生んだ孤高の巨匠の名を冠したダニエル・シュミット賞を受賞し、4冠に輝いた。審査においてはジャ・ジャン・クー監督ら審査員全会一致のもと、金豹受賞が決まり、審査委員長のイレーヌ・ジャコブは、「愛の予感」を「美学的に力強く、コンペティションに参加した19本の映画の中で最も個性的である」と称した。その言葉は、映画そのものの純粋さを追求し、先鋭的になりえた映画「愛の予感」に対する最高の賛辞である。



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