アカデミー作品賞を受賞した米映画「スポットライト」で、女性記者役を好演したレイチェル・マクアダムズ(37)が180度違った顔を見せている。

 6月公開の米映画「サウスポー」で、主人公のボクシング・チャンピオン(ジェイク・ギレンホール)を支える妻役だ。養護施設で育った主人公の幼なじみという設定で、見た目に知性は感じさせないが、情緒不安定な夫を包み込むような温かさにあふれ、何よりセクシーな女性である。

 服装には無頓着だった「女性記者」とは違い、体の線を強調したタイトなミニスカート姿がまぶしい。

 物語の本筋はチャンピオンの転落と再生で、「ロッキー」や「レイジング・ブル」に連なる正統派のボクシング映画だ。ギレンホールの体作りやファイトシーンのリアルさは、シルベスタ・スタローンやロバート・デ・ニーロと比べてても遜色ない。が、ここでは先月来日したときの記憶も新しいマクアダムズに触れたい。

 カナダに生まれたマクアダムズは4歳でフィギュアスケートを習い始めている。やや大ぶりで形のいいヒップやしっかりとした太ももはこのたまものだと思う。

 トロントのヨーク大学で演劇美術を学び、女優デビューは20歳。05年に「ミーン・ガールズ」でリンジー・ローハンと共演し、09年にはガイ・リッチー監督の「きみがぼくを見つけた日」に出演した。11年には「恋とニュースのつくり方」でダイアン・キートン、ハリソン・フォードと共演、翌年にはウディ・アレン監督の「ミッドナイト・イン・パリ」で注目された。

 ビッグネームの中でもセンスの良さで知られる人たちがその才能を認め、要所を締める脇役として重用されてきたことが分かる。

 だが、そんな経歴とは裏腹に本人には洗練されたところがない。都内の外国特派員協会で行われた来日会見には大胆な花柄のミニドレスで登場した。

 来日中のカナダのトルドー首相夫人も明治神宮参拝の際に花柄ワンピースを着用している。この季節の「花柄」はカナダ的な社交ツールなのかもしれないし、マクアダムズの場合はヒップや太ももが強調されて、ある意味魅力的でもあった。が、「スポットライト」の女性記者役のPRという意味ではちょっとスカートが短すぎるし、無地の淡色などの方がシックに見えるだろうに、と思った。

 特派員協会は東京(日本)のニュースを全面的にカバーする外国人記者の集まりだ。映画が専門という訳ではないから質問は多岐にわたる。突然「パナマ文書をどう思いますか?」なんていう質問も飛んだ。「ボストン・グローブ紙の新聞記者」役に掛けた問いかけだが、どう考えてもむちゃぶりである。

 虚をつかれたマクアダムズは、うつむいたまま数秒間沈黙。ここはジョークを交えて笑いに持っていくところなのだろうが、「新聞記者を演じましたが、そこまで考えを巡らせることはありませんでしたね。改めてたいへんなお仕事だと思います」と真顔で懸命に答えていた。17年の女優キャリアを重ねながらカナダ・オンタリオ州の自然に囲まれて育った牧歌的な匂いが消えていないのだ。

 日本では、デビュー間もない20代でスタイリスト仕込みの「センスの良さ」を身につけてしまう人が少なくないので、このキャリアにしてこの素朴さはむしろ新鮮である。

 翌日、都内で行われた舞台あいさつでは片づけコンサルタントの近藤麻理恵さん(31)と対面した。近藤さんの著書は欧米でもベストセラーで、マクアダムズも愛読者だという。近藤さんがサプライズ登壇して、その正体が明かされた瞬間に彼女の顔が赤らむのが遠目にも分かった。「何とラッキーな。生きていて良かった!」。素直過ぎる感想だった。

 「サウスポー」の好演は、アカデミー助演賞にノミネートされた「スポットライト」にも劣らない。素朴だからこそ、どんな色にも染まる。演出家にとっては、加工しやすい素材なのだろう。一方で、どんな役を演じても、まっすぐな視線や表情の端々に「純」な部分がのぞく。この人の持ち味である。

 今後「根っからの悪女役」が振られたとき、この「純」はどこまで消すことができるのだろうか。この人の今後には、そんないびつな期待がある。【相原斎】