今年の流行語大賞は、候補を見渡すだけでレベルがひときわ高かったことが分かる。強烈な印象を残した人物や事柄が多かったということだろう。

 そんな状況に埋もれがちで、おまけにひと言ではくくれないから、候補にはなり得なかったのだが、「天然」由来のリアクションで笑わせてくれるタレントたちがじわりと存在感を示した年でもあったと思う。

 出川哲朗(52)の出番も例年以上に多かった。出演していないのに専門学校以来の友人である内村光良(52)が監督・主演した「金メダル男」の舞台あいさつにも登壇した。場違いな昔話を披露。当時の内村のニックネームである「チェン」を連発した。

 香港のカンフー・スター、ジャッキー・チェンに似ていることに由来したニックネームだが、客席の大半を占める若い女性には何のことか分からない。出川が「チェン」を重ねるに従って、客席に「?」の波が広がった。

 そんな空気に耐えきれなくなったのか、内村が「チェン、チェン言うのやめてよ。学生時代、出川君があんまりチェン、チェン言うので、出川君のお母さんが僕のことを中国の人だと思って『お国にはいつ帰るの?』って聞いたことあるよね」と万人受けのエピソードを持ち出して、ようやく会場を笑いに包んだ。

 ちゃんと受けて笑いに転化してくれる人がいないと出川のような「王道リアクション芸人」は生きないのだなあ、と改めて思った。

 今年のナンバーワン「リアクション芸人」とも言えるりゅうちぇる(21)の場合は「危機的状況」に追い込むだけで笑わせてくれた。ドッキリものの「宇宙人出現」では、音におびえ、影に震え、さしてクオリティーの高くない実物を目の前にして悲鳴を上げた。

 一転、「志村どうぶつ園」(日本テレビ系)の「保護犬一時預かり」の企画では、パートナーのぺこ(21)とともに素の優しさを垣間見せ、裏のない本物の天然を実感させた。だからこそ、笑えるのだと思った。

 鈴木奈々(28)にもこれに近いものを感じる。やはり、ドッキリものでバイクのオフロード・レースのリポート中に思いっきり泥んこをかぶるというのがあったが、落着後もカメラが回っていて「今ので大丈夫だった?」と泥まみれの顔でディレクターに確認する部分が1番笑えた。

 りゅうちぇるも鈴木も「素のままのリアクション」が武器だ。回を重ね、本人にその気がなくても見る側が「作為」を感じればしらけてしまうのかもしれない。いつまでも天然鮮度を保ってほしいものだ。

 そんな心配がないのが、インテル長友佑都(30)と来年結婚が伝えられている平愛梨(31)だ。長友の「アモーレ」は流行語大賞候補にもなったが、ここ数年、愛梨の天然リアクションには「別格」を感じている。「20世紀少年」3部作(08~09年)のヒロインになったときは正統派女優の匂いも感じたが、別の道を究めたようである。

 2年前のことになってしまうが、「スクール革命」(日本テレビ系)で「知られざる動物の世界」がお題になった時のことは忘れられない。

 次々に登場する動物になかなか興味を示さない愛梨に、司会の内村光良が「愛梨ちゃんは動物に興味がないの?」。一拍おいて愛梨は「男が好き!」。一瞬、スタジオ中が凍り付き、それが困惑に変わった頃、「いや、私、兄弟が多くて、家族の中では男たちが動物好きなんです」。スタジオ全体がホッとするとともに内村が「言い方違うよね」。スタジオ爆笑と同時に内村は「バンザ~イ、バンザ~イ」と両手を挙げた。出川の時といい、内村は天然の扱いにたけている。

 愛梨の頭の中では意味が通っているのだろうが、彼女ならではの省略を重ねた結果、とんでも無い風に聞こえる言葉になって大ボケとなる。この番組では、どんな放送作家も思い付かない想定外の言動で笑いを取る場面が何度かあった。

 実は、そんな天然の笑いが好きという方にお薦めの映画がある。公開中の「世界の果てまで ヒャッハー!」(フランス)だ。ブラジルのリゾート地を訪れた男女グループの文字通りおバカな冒険譚(たん)。ユル過ぎる企画の割にスケールが大きく、それなりのコストも掛かっている。

 日本だったらGOサインを出す映画会社は無いだろうが、これが拾い物の面白さだ。監督・脚本を共同でこなすニコラ・ブナムとフィリップ・ラショーはフランスでカルト的人気を誇るお笑いコンビだそうで、登場人物のおとぼけレベルはグラデーションのように微妙な差で並ぶ。こうなったら笑えるという「お約束」をことごとく守り、裏切らない。想定内に終わるかと、思いきや弾けたところもあって、「読後感」も悪くない。出演者は日本ではほとんど知られていない人ばかり。日本の天然タレント以上にリアクション顔はどれも無理なく自然に見えた。【相原斎】