大作映画になると、キャンペーン行脚もかなりの行程になる。日本映画の場合は全国を巡って試写会の舞台あいさつを行ったり、ローカル局の情報番組に出演したりする。ハリウッド映画ともなれば、それがワールドワイドになるわけだ。

 関係者のみでタイムテーブルにそって移動する日本映画と違い、ハリウッド映画の場合はプライベートな同伴者が少なくない。丸ごと費用を負担する映画会社にしても、作品の無事完成へのご褒美的意味合いをこめているのだろう。

 先日、来日したドイツ出身の俳優マイケル・ファスベンダー(39)もインタビューで、昨年10月の同伴来日を明かした。

 「公式には今回が初来日になっているんだけど、実は去年、彼女の来日キャンペーンにもついて来たんだよね」

 交際3年になる彼女とは「リリーのすべて」(16年)などで知られるアリシア・ヴィキャンデル(28)。ヒロインを務めた「ジェイソン・ボーン」のPRのために昨年10月来日したが、そのとき、作品にはまったく関係のないファスベンダーがちゃっかり同行していたというのだ。米映画サイトが選ぶ「世界で最も美しい顔100人」の1位に選ばれた彼が、しれっと一私人としてヴィキャンデル一行の中に紛れ込んでいたことになる。

 ハリウッドの「同伴制度」は昔からあった。30年近く前になるが、当時20代だったメグ・ライアン(55)が来日した時のインタビューで印象的なことがあった。

 場所は帝国ホテルのスイート・ルーム。「めぐり逢えたら」(93年)や「ユー・ガット・メール」(98年)など、ロマンチック・コメディーが得意だった彼女はとにかく明るかった。笑いの絶えない楽しい取材だったのだが、その目がしばしば隣の寝室の扉の方に泳ぐのが気になった。

 「あちらに何かあるんですか?」と思わず聞いた。

 大きな目をさらに大きく見開いた彼女は一瞬ためらった後「実は大切な人がいるのよ」と打ち明けた。結婚を目前にしていたデニス・クエイド(62)が寝室で息を潜めていたのだった。

 注目の新進女優なのだから、わがままを言えば映画会社は別の部屋も押さえてくれただろうに。少しでも近くにいたかったに違いない。悪びれないライアンと困惑顔の通訳さんにはさまれて笑いをこらえたことを思い出す。

 大がかりな同伴来日もある。昨年3月、念願のアカデミー主演男優賞を射止めたばかりのレオナルド・ディカプリオ(42)は映画会社の仕立てたプライベート・ジェットで20人余りの取り巻きを引き連れてやって来た。

 ファンから「ママ」と親しまれている母親のイルメリンさんを始め、私的なボディ・ガードであるダン・パーマーさんの姿も。ウォーレン・ビーティに似た端正な顔立ちのパーマーさんは「ボディガード」(92年)でケビン・コスナーが演じた主人公のモデルになった「有名人」でもある。

 別の映画キャンペーンをしていて、ディカプリオ一行に中国で合流したという「戦場のピアニスト」(02年)のエイドリアン・ブロディ(43)の顔もあった。ディカプリオの友人というから、彼も私的同伴者の1人と言えるだろう。

 彼らがこぞって参加したアカデミー主演男優賞作品「レヴェナント」のジャパン・プレミアはひときわ華やかなものとなった。

 キャンペーン行脚そのものを楽しんでしまう彼ら彼女らの笑顔を見る度に「ハリウッドの大きさ」を実感する。【相原斎】