30年以上芸能界をウオッチしていると、嫌でも俳優さんたちの「年輪」を実感するときがある。

 見られる仕事である。気も張れば、ケアもする。10年くらいなら「変わらないなあ」と思う場合の方が多い。が、20年もの歳月を経ると劣化が目につく人もいる。内心辛い思いをしている人もいるに違いないが、「いい年の重ね方」という言葉にくくられる。

 そんな「時間の残酷」をそのまま映し出したのが「T2 トレインスポッティング」(4月8日公開)である。

 「トレスポ」ブームを起こした前作から21年。刹那的な生き方がどこかかっこよかったスコットランドの4人の青年も、今やひねた中年になっている。ユアン・マクレガー、ロバート・カーライル、ジョニー・リー・ミラー、ユエン・ブレムナーがそのままの役で再登場する。

 振り返ると、「トレスポ」にはインパクトがあった。スコットランドの空洞感、さびれ感のようなものが、バブル経済が弾けた日本の空気に微妙にマッチしていた。デビット・ボウイがプロデュースしたイギー・ポップの「ラスト・フォー・ライフ」がオープニングに使用され、古典になりつつあったこの名曲が当時の若者の心に刺さった。

 幅広い世代に浸透したわけではないが、音楽好きの若者の間ではトレスポ=かっこいい、のイメージがあった。最近では「マドンナの前夫」としてばかり話題になるガイ・リッチー監督も、98年にこの路線上にある「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」を撮っている。「トレスポ」をさらに弾けさせた大好きな作品である。

 アーヴィン・ウェルシュの原作「T2-」は前作の9年後を描いているが、ダニー・ボイル監督は出演者たちの加齢に合わせて20年後に設定を変更。人生後半に差し掛かった男たちのドラマに仕上げている。

 スコットランド・エディンバラ。ドラッグの取引に成功し、山分けするはずだった大金を持って逃げていたレントン(マクレガー)が20年ぶりに戻ってくる。

 古い街並みは閑散とし、箱物過剰感がある。かつての仲間たちはいかにも的な年の重ね方をしている。血の気の多いべグビー(カーライル)は刑務所の中、一番仲の良かったサイモン(リー・ミラー)は母親から譲り受けたパブの経営が思わしくなく、ゆすりや売春で生計を立てている。気のいいスパッド(ブレムナー)は配管工として地道に家族を養っていたが遅刻が原因でクビになり、ジャンキー生活に逆戻り…。

 再会は「20年前の裏切り」を呼び覚まし、愛憎の渦を起こして、いびつながら安定していた日常をかき回す。中年になっても漂う「不良」の空気はそれなりにかっこいいが、うらぶれ感も否めない。4人の連れ合いや元恋人、女性たちの地に足を着けた生き方がコントラストになっている。

 整然とした街並みや、サイモンのパブの酒瓶の並びにも歴史の落ち着きがある。父親がそのままに残してくれたレントンの部屋も現実離れして整頓されている。

 ボイル監督は、シワの刻まれた4人の顔をそんな背景になじませて、決してまっとうではない4人の生き方も「それでいいのだ」と肯定しているように見せる。ドラッグを媒介に現実と幻想をかみ合わせ、随所にハッとさせるシーンもある。相変わらずの手際の良さで、ラストはなるほど感でまとめている。それでも切ない。

 年輪を重ねることは悪くないが、やっぱりほろ苦いのだ。【相原斎】

「T2 トレインスポッティング」の1場面(ソニーピクチャーズ提供)
「T2 トレインスポッティング」の1場面(ソニーピクチャーズ提供)