80年代後半にロサンゼルスのユニバーサル・スタジオでモーション・キャプチャーの製作現場を取材したことがある。

 全面的にCGを導入したディズニー映画「トロン」(82年)の公開後ということもあって、理屈は分かっていた。それでも、関節部分を中心に全身数十カ所に発光体のマーカーを付けた人間の動きが、モニターの中でアニメキャラの動きとして再現されるのを目の当たりにした驚きは今でも鮮明に覚えている。

 あれから30年。この技術は喜怒哀楽を映す表情から、風に波打つ毛先の動きまで克明に再現できるまでに進歩した。米映画「猿の惑星 聖戦記」(13日公開)では、そんな先端技術を改めて実感できる。

 「猿の惑星」の起源は半世紀さかのぼることになるので、68年のチャールトン・ヘストン主演版から簡単におさらいしておく。SF映画史に残るこの作品は、人工冬眠装置で眠ったまま未知の惑星に漂着した宇宙飛行士が、「知性を持ったサルと動物のような人間」というその惑星の逆転状況に翻弄(ほんろう)される物語だった。

 以後、後日談を追って「最後の猿の惑星」(73年)まで5作が製作され、99年にはティム・バートン監督の手によってリメーク版もお目見えした。

 オリジナル作品では、ヘストン演じる主人公が最後に砂に埋もれた自由の女神像を発見。「猿の惑星」が実は「未来の地球」だったことが判明するのがオチになっていた。11年にスタートした新シリーズは時代をさかのぼり、いかにして地球が「猿の惑星」になったのかを解き明かす内容である。

 「スター・ウォーズ」が旧3部作の後に新3部作で歴史をさかのぼったのと同じ方式で、新シリーズの第3作に当たる今回は、オリジナル版の冒頭に直結する筋立てになっている。そのため、オリジナル版に登場した美女ノバ(リンダ・ハンソン)が今回は同じ名前の少女(アミア・ミラー)として登場。小学生のときにオリジナル版を見た身にとってはそのとき抱いた疑問に半世紀ぶりに答をもらったような感慨がある。

 新シリーズの第1作でアルツハイマー病の新薬投与で知的進化を遂げたサルのリーダー、シーザーが今回も主人公。冷静なはずの「彼」が人間に家族を殺され、リーダーとしての責務と私怨(しえん)の間の葛藤するのがドラマの軸となっている。

 この複雑な感情表現に、冒頭で書いたモーション・キャプチャーの劇的進歩が生きてくる。前作より直立の度合いを高めた人間に近い歩き方、憤怒の表情…そこにはシェークスピア劇を見ているようなメリハリがある。

 英国出身の演技派アンディ・サーキスの巧演がシーザーの表情に克明に反映される。シリーズを通じてアクションが満載だが、前作に続くマット・リーヴス監督は、実はドラマ部分に軸足を置いている。

 ドラマを彩る個性も豊かだ。サル側ではちょいワル風のバッド・エイブ(スティーブ・ザーン)が新登場。人間側では演技巧者のウディ・ハレルソンが偏執的なリーダー役で思いっきり弾けている。【相原斎】