BS放送には有料、無料にかかわらず見応えのある海外ドラマが少なくない。今は「スキャンダル」の第6シリーズと「クワンティコ」の第2シリーズを続けてみている。

 映画を見る時と違って、事前に資料を読むこともないので、キャストのプロフィルも気にせずに流し見しているのだが、「スキャンダル」のオリビアも「クワンティコ」のアレックスも主人公が飛びきりの美女であることは確かだ。

 そんな彼女たちがホワイトハウスを裏側から牛耳ったり、単身国家的犯罪を阻止したり…。毎回畳みかけるような展開で、ボルテージの高い脚本にもまれる彼女たちには、美しさの上にキャラの濃さも求められているのだと思う。

 先日、「クワンティコ」のDVDリリースの発表会見があって、アレックス役のプリヤンカー・チョープラー(35)のプロフィルをじっくりと読む機会があった。これだけ楽しませてもらっていながら、これが初見とは申し訳ない話だが、想像以上の履歴に目を見張った。インド映画界ではすでにデビュー15年を数える彼女は「ボリウッド」では押しも押されぬトップ女優だという。おまけに00年のミス・ワールドであり、今年4月に米映画サイトが発表した「世界でもっとも美しい女性」では2位にランクインしている。

 今年6月にはイラン映画「セールスマン」の主演女優タラネ・アリドゥスティ(33)が来日して、その美しさと知性に息をのんだばかりだ。チョープラーがインダス河なら、こちらは中東メソポタミア…中学生の歴史で学んだ「世界四大文明」が改めて頭に浮かぶ。悠久の歴史を刻む国々には、まだまだ未知の逸材が少なくないことを実感した。来日会見でアリドゥスティに「ハリウッド偏重」の視聴習慣を指摘されたことも思い出す。

 「クアンティコ」は現在と過去を行き来する重層的なドラマである。例えると宮藤官九郎脚本で放送中の「監獄のお姫様」(TBS系)とちょうど同じ構成で、現在と過去の微妙な演じ分けが難しい。外見だけでも十分に個性的なチョープラーだが、劇中ではこの「時空移動」にしっかりと変化を付け、全身を使ったアクションで身体能力の高さも印象付けている。

 当然のことなのだろうが、007シリーズのボンドガールにとの声も挙がっていたそうだ。米誌「コンプレックス」のインタビューでこの評判について聞かれたチョープラーは「それはいつも言われているわ」と受け流した後「でも却下ね。私はむしろボンドになりたい」と語っている。

 最近になって「007」の製作チームが女性版ジェームズ・ボンド映画「ザ・リズム・セクション」の製作を発表。この主演に米女優ブレイク・ライブリーを起用することがロイター電で流された。このニュースに一番ショックを受けたのは、実はチョープラーではなかったのかと思う。

 ちなみに「スキャンダル」のオリビア役、ケリー・ワシントン(40)の方は対照的米国も米国、ブルックリン生まれのニューヨーカーである。改めて資料を読んで映画「Ray」(04年)で、レイ・チャールズの妻役にふんしていたことも知った。「スキャンダル」を見ていると、演じるフィクサー役の印象が強すぎて、正直同一人物と気付かなかったのである。

 「寅さん」の渥美清しかり、シリーズも回を重ねると、はまり役がそのまま個性にシンクロし、持っているはずの潜在能力が見えにくくなる。「クワンティコ」はすでに第3シリーズの製作が決まっているという。これからハリウッドで活動の幅を広げようというチョープラーにとっては「はまり役」との距離のはかり方が今後の課題になるのだろう。【相原斎】