養女へのセクハラ暴露で、長らく逆風にさらされているウディ・アレン監督(82)だが、作品の方はしっかりと変化、進化を続けていることに改めて驚かされる。

 「女と男の観覧車」(23日公開)では、初顔合わせのケイト・ウィンスレット(42)をヒロインに迎え、女盛りの心の奥底をえぐり出してみせた。

 まずは50年代のニューヨーク、コニーアイランドの再現に目を見晴る。「地獄の黙示録」「ラスト・エンペラー」などで知られるカメラマン、ビットリオ・ストラーロ(77)とは、前作「カフェ・ソサエティ」に続いて2度目だが、2人が組んだのはまさに今回のため、と思えるようにコニー・アイランドの遠景、近景、アップが美しい。

 遊園地の人波、静かな海岸線の奥行き、レストランを改装したヒロインの住まい、そして表題の観覧車…淡色で織り上げた背景は再現のレベルを越えて50年代が息づいている。

 ウィンスレットふんするヒロインには、駆け出し女優だった過去がある。ドラマーの夫がありながら共演者と深い関係になり、それを知った夫は自殺した。今は遊園地のレストランでウエートレスをしながら回転木馬でチケットを売る2度目の夫(ジム・ベルーシ)と暮らしている。同居の幼子は前夫との間に生まれた子だ。

 一見平穏に見える暮らしの裏側で、幼子には放火癖があってしばしば騒動を起こす。彼女自身も脚本家を夢みるビーチの監視員(ジャスティン・ティンバーレイク)と不倫関係にある。

 諦めきれない女優への夢、悔やみきれない前夫の自殺…突き上げるような思いを抑えることができないから情緒は安定しない。そこに現夫と前妻の間の子で、年頃の娘(ジュノー・テンプル)が転がり込んでくる。娘の前夫はマフィアの幹部で、秘密を知る娘は命を狙われているというからややこしい。

 さらにはビーチ監視員と好意を抱きあって、義理の母であるヒロインと三角関係になるからますますややこしい。

 相関図を示したくなるような人間模様を、世の倫理観とは無縁の領域に生きるアレン監督は「正直に生きるとはこういうこと」と突きつけてくる。こちらの心の奥底もまさぐられるような心理描写で、いつの間にか愛憎世界のまっただ中にたぐり寄せられる。

 感情のおもむくままに生きながら、どこか憎めないヒロインにウィンスレットはしっかり同化している。赤みがかった髪が陽光に輝く。憂いの中にふわっと浮かぶ笑顔が美しい。

 ベルーシの見事なおっさんぶりとティンバーレイクの50年代ハリウッドスター風容姿のコントラストも計算ずくなのだろう。アレン監督が描く男女の愛憎は、自身の一筋縄ではいかない恋愛遍歴に重なるように突き抜けている。【相原斎】