今年のアカデミー賞は俳優部門にノミネートされた20人全員が2年連続で白人だけだったことで、「白すぎるオスカー」とやゆされ、ウィル・スミスやスパイク・リー監督ら黒人がボイコットを表明する騒動に発展し、人種論争がクローズアップされた授賞式となりましたが、今度はアジア人への差別問題が勃発しています。

 ことの発端は、授賞式で司会を担当した黒人のコメディアン、クリス・ロックが、アジア人の子供3人を登壇させ、「投票計算係」と紹介し、「金融会社の最も勤勉な代理人。このジョークに腹が立った人はスマートフォンでツイートして下さい。でも、そのスマートフォンもこの子供たちが作ったんだけどね」と語ったこと。「アジア人は算数が得意だというステレオタイプの押しつけだ」と、在米アジア人たちから批判の声が相次ぎ、ついには台湾出身のNBA選手ジェレミー・リンも、「アジア人をたたくことがかっこいいとかOKだとかいう風潮は、もういい加減うんざりだ。アジア人のために言うべき時が来たと思った」と、ロサンゼルス・タイムズ紙にコメントする騒ぎになっています。

 人種論争を受けて今年の授賞式は終始、人種の多様性を訴える内容となり、ロックはブラックジョークでこの問題に鋭く突っ込み高い評価を受けました。しかし、問題の発言だけは、「笑えなかった」「つまらないジョーク」とのコメントが相次ぎ、多くのアジア人やアジア系アメリカ人が、「不快に感じた」と語っています。実際には、アジアで行われている児童労働を風刺したかったのではないかと思われていますが、「下手すぎ」とのコメントから分かるように、多くの人にとって笑えないジョークだったようです。

 その背景には、ハリウッドにおいて黒人よりも圧倒的に数の少ないアジア系は、さらに冷遇されているという現状があります。近年は渡辺謙が「ラストサムライ」(03年)でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、その後も「硫黄島からの手紙」(06年)や「インセプション」(10年)などに出演。ブロードウェイミュージカル「王様と私」でトニー賞にノミネートされるなど目覚ましい活躍をしていますが、まだまだハリウッドの第一線で活躍するアジア人はごくわずか。大ヒットしたSF映画「スター・ウォーズ フォースの覚醒」で黒人のジョン・ボイエガが主要キャラクターの一人に大抜てきされるなど、黒人はメジャー作品で主演、もしくは重要な役どころを演じることがありますが、アジア人は常に脇役で、メインキャストを演じる機会がほとんどないのが現実です。ハリウッドで映画化されたドラゴンボールの実写版「DRAGONBALL EVOLUTION」(09年)では孫悟空は白人俳優が演じるなど、原作ではアジア人の役であっても実際に映画化される際には白人が主人公として書き替えられることもしばしば。ハリウッドにおいてアジア人は、黒人以上に少数派で苦しい立場に立たされていることが分かります。

 このような状況に、米国生まれで「ブラックハット」(15年)などハリウッド映画でも活躍する台湾の人気アーティスト、ワン・リーホンも、「アカデミー賞では黒人と同じくらいアジア人の候補者がいない」と指摘。人種の多様化を訴えるなら、黒人のみならず、アジア系やヒスパニック系など幅広い人種に対しても寛容になるべきではないかという意見も多数聞かれます。また、黒人に対する差別はNGで、アジア人に対してならOKという感覚が分からないという意見もあり、アカデミー賞にとってはまだまだ人種の多様化に対する問題は山積みと言えそうです。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)