センサーを装着した人やモノの動きをデジタル化し、より忠実でリアルな動きのCGを作るモーションキャプチャーは、立体的でより人間らしい動きを再現するために映画やアニメ、ゲームなどで幅広く活用されています。ジェームズ・キャメロンの「アバター」(09年)の影響もあり、ハリウッドで注目されるモーションキャプチャー業界でプロデューサーとして活躍する小川久美子さんにお話を伺いました。

 ハリウッドでモーションキャプチャーを手掛ける製作スタジオ「Rouge Productions」でプロデューサーとして手腕を振るっている小川さんは、ゲーム「バイオハザード」シリーズなどの世界的大ヒットゲームやコカ・コーラなどのテレビCM、映画の予告編などを多数手がけています。しかし、最初からこの業界に興味があったわけではなかったそうです。

 「もともとはVFX(ビジュアル・エフェクツ)に興味があり、高校卒業後にアメリカに渡りました。ロサンゼルス郊外のパサデナ・コミュニティ・カレッジに入学し、マルチメディア科を専攻して映像制作のしくみとウェブデザインを学びました。在学中からウェブデザインに興味を持ち始め、コンピューターの専門学校に編入し、気づいたらウェブデザイナーになっていました」。

 卒業後の2005年、当時ロサンゼルスにあった日本の製作会社ジャストコーズプロダクションの子会社にウェブデザイナーとして入社。そこでモーションキャプチャーと出会います。07年にはゲーム「バイオハザード5」のシネマティックシーンにアシスタント・プロデューサーとして携わり、14年にルージュ・プロダクションに移籍し、プロデューサーとして活躍しています。

 「最初はゲームのことも、モーションキャプチャーのことも何も知りませんでした。小さな会社でしたので、大きなプロジェクトが入ると私も製作を手伝うようになり、少しずつこの業界の仕事を覚えていきました。入社当初は、ジャストコーズはロサンゼルスに撮影スタジオを持っていませんでしたので、こちらでオーデョションをして受かった役者を日本に連れて行って撮影をしていました。私はそのアテンドや通訳の仕事をしていました。ゲームの多くは、外国人のキャラクターがベースになっていますから、日本人が演じるとどうしても動きなどに違和感が出てしまうんです。そのため、本場ハリウッドで活躍する役者を起用していたんです」。

 「アバター」やトム・ハンクス主演の「ポーラー・エクスプレス」(04年)、ブラッド・ピット主演の「ベンジャミン・バトン」(08年)などモーションキャプチャーといえば体の動きだけでなく、目や鼻、口の動きなど顔の形や動きも本人にそっくりなCGを連想しやすいですが、実はどんなモノや人にも簡単になれてしまうのだと言います。

 「スターの顔と体をそのままスキャンしてモデルを作り、声も本人が演じるパターンはハリウッドでは増えていますが、ゲーム業界では特にキャラクターが決まっているわけではないので、例えば戦闘モノならミリタリー系のアクションや動きが得意な役者をオーデョションで探します。CGモデルと役者の体型が似ているとベストですが、必ずしもキャラクターの外観が似ている必要はなく、身体的にもこの役は小柄な役者しかできないというようなこともありません。動きをデータ化するので、サイズも変えられますし、顔とボディが別々の人が演じても良いんです。過去には役者の動きとは別に声優さんの顔の動きを撮るというようなこともしていました」。

 撮影は壁一面に66台ものカメラが取り付けられた専用スタジオで行います。通常の撮影スタジオとは違い、バックグラウンドやセットは、木材や鉄パイプで作られたフレームのみのセットを使います。役者は専用のボディスーツに靴を履き、全身に45~65個のドットと呼ばれるセンサーを付けて演技をします。360度周囲を取り囲むカメラはそのドットのセンサーを読み取り、データ化するのです。

 「人がカメラを持って生身の人間を撮影するのは限界があると思いますが、CGの世界では可能性が広がります。モーションキャプチャーは動きの幅が広がり、遊べるようになるんですね。それに実写とは違い、1人の役者が何役でもやれてしまうのもモーションキャプチャーならでは。銃や剣などの小道具を使う場合は、そこにもドットがついています」。

 仕事の多くは日本のゲームだといいますが、アメリカのテレビCMや映画の予告編、プリビズと呼ばれる映画を製作する前に完成した映像をシュミレーションする簡易映像なども手掛けています。

 「日本やアメリカだけでなく、スウェーデンや、カナダの仕事などもあり、国際色があってバランス良い環境なのではないかと思います。映画の予告編は、かっこ良く見せるためだけに作ることも多いのでモーションキャプチャーはうってつけです。コカ・コーラのCMでは、あの白い熊の動きを実際にモーションキャプチャーをつけた人間が演じていますが、ロボットなど人間以外の動きに使うことも多いんですよ」。

 1本のゲームを作るには数年かかるといいますが、プロデューサーとして同時進行で数本のプロジェクトを抱えることも珍しくないそうです。

 「ゲーム本編の長さにもよりますが、バイオハザード5は、2008年にプロジェクトを受注してから2年間かかりました。絵コンテを作り、ビデオストーリーボード、モーションキャプチャー、アニメーション、声の録音、ライティングと、1本のゲームを作るには壮大な作業があります。プロデューサーの仕事は、スケジュールと予算、そしてクオリティの管理がメインです。クルーを雇い、すべての工程を終えて完成品を納品するまでが仕事です。クルーと役者のためにステージを用意し、気持ち良く仕事ができる舞台を作ることが私の仕事だと思っています。技術はどんどん進化しているので、日々勉強ですね。スタジオによってやり方は違いますが、開発している人たちはハリウッドに集まっていますから、ここでは新しい技術をいち早く見ることができます」。

 プロデューサーとして実写の現場も学びたいと、現在は短編映画の製作にも乗り出したという小川さんの夢は、ハリウッドで映画を製作することだと言います。

 「CGを使った映画に興味があります。『猿の惑星』のようなCGと実写が混合した作品にいつかかかわることが夢です。たくさんの人に感動を与えられるような映画を作るため、ストーリーから映像のクオリティまで最新の技術とリソースを使って、ハリウッドだからこそできる映画をいつか作りたいです」。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)