昨今は何かと人種問題がクローズアップされているハリウッドですが、このほど、サミュエル・L・ジャクソンが、「米国人の役は米国の俳優に演じさせるべき」と発言してネットが炎上しています。ジャクソンはニューヨークのラジオ局のインタビューで、英国出身のダニエル・カルーヤが公開中の映画「ゲット・アウト」で米国人の黒人役を演じていることに言及し、「きちんと(役柄を)理解できる米国人の兄弟が演じていたらと考えずにはいられない」とコメント。これに対し、「米国人が英国人を演じるケースだってある」「米国人の演技力の問題」などの批判的なコメントが殺到。「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(15年)に大抜擢されたジョン・ボイエガも、「英国の黒人VS米国の黒人。なんてくだらない」とツイッターに投稿するなど大きな波紋を広げています。

 ハリウッドでは近年、ボイエガの他、「スター・トレック・ビヨンド」(16年)などで知られるイドリス・エルバ、「オデッセイ」(15年)や「それでも夜は明ける」(13年)のキウェテル・イジョフォー、「グローリー/明日への行進」(14年)などで知られるデビッド・オイェロウォら、英国出身の黒人俳優の活躍が目立っています。しかしこれは何も黒人に限ったことではなく、英国系俳優そのものの活躍が目立っている現実があります。例えば、アメコミのヒーローが主人公の「スーパーマン」を演じているのは英国人のヘンリー・カヴィルですし、「バットマン」を演じるクリスチャン・ベールも英国出身。「博士と彼女のセオリー」(14年)でアカデミー賞主演男優賞に輝いたエディ・レッドメインも「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのオーランド・ブルームも英国人で、黒人に限らずハリウッドでは数年前から米国人の俳優たちが英国人に役を奪われているということは度々話題になっていたのです。

 英国は歴史的に古くから演劇が盛んで、演劇出身の俳優が多いことが理由の一つに挙げられています。演劇界で下積みした俳優たちは演技の基礎ができており、テレビ出身の米国の俳優よりも表現力にたけるとも言われています。米国人のアクセントを完璧にマスターしている俳優も多く、観客は違和感なく役柄を受け入れることができるのも特徴です。また、英国立劇場などで古典舞台に立っていたベネディクト・カンバーバッチをはじめ、日本でも大人気のトム・ヒドルストンら独特の存在感と個性、演技力で際立っている俳優も多く、今後もこの傾向は続くのではないかと思います。

 余談ですが、ハリウッドでは日本人の役を日本人ではなく、中国人や韓国人が演じるケースも目立ちます。そこにはやはり言葉の壁が大きいと言われていますが、言葉の壁のない英国人は米国人と対等に役を争うことができるのは致し方がないことなのかもしれません。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)