「声を作らないで!」「さっき話してた時と同じ声で自己紹介もう1回言ってみよう!」。アイドルやアーティストにトークレッスンをするとき、中でも「発声」のレッスンをする際に、私が度々言っていることです。私が新人の頃、先輩からよく言われた指摘でもあります。

トーク編12「声のお話」

 【前回までのあらすじ】 トークレッスンの項目を<1>発声、<2>滑舌、<3>話の内容、<4>メンタル、<5>コミュニケーションと分け、これまで<3>話の内容について、続いて<2>滑舌についてお伝えし、顔筋のトレーニング方法をご紹介しました。

ニッポン放送で打ち合わせした時の五戸です。もう社員ではなかったので入館証を首から下げています(2016年3月)
ニッポン放送で打ち合わせした時の五戸です。もう社員ではなかったので入館証を首から下げています(2016年3月)

 発声練習と滑舌練習はとても似ていますが、厳密に言うと違うものだと思っています。やることは同じなのですが、意識するポイントが発声練習のときは「声」、滑舌練習のときは「顔筋」。今回は発声練習=声についてです。

声は人なり

 「声は人なり」。ラジオ業界はもちろん、エンターテインメント業界や声学の世界でよく言われる教えです。ことわざの「文は人なり」(文章を見れば書き手の人となりが判断できる、の意)と同じで、その人の声を聞けば、どんな人かわかる、という意味です。

 これはスピリチュアルなものではなく、学問として研究されている分野。年齢や性別、背の高さや体格で声帯が異なるため声は変わってきますし、それが声=その人の個性でもあります。物理的なものだけでなく、性格も声に現れますし、最近では、病気がある人も声に何かしらの変化が出る、という研究も進んでいます。簡単に言うと、優しい人は声も優しそうだし、声が意地悪そうな人は実際の性格もちょっと意地悪だったりするということ。周りの人の声で「声は人なり」が思い浮かぶことありませんか?

理想の声で理想の自分に

 逆に言うと、理想の声を出していると、理想の自分に近づいていける、ということでもあります。ただ、声というのは、前述したように、年齢・性別・体格・体型で持っている声帯が変わりますので、無理して出そうとすると、疲れてしまいます。そのため、理想の声を「高い声」とか「かわいい声」と思わずに、その人の本来持っている声で一番出しやすい声、そして自分の個性が出る声を、理想の声にしていただくのが最も合理的です。

日本コロムビアのアイドル研修生「seeDream(シードリーム)」のトークレッスン講師をしている五戸です(2017年2月、日本コロムビア会議室で)
日本コロムビアのアイドル研修生「seeDream(シードリーム)」のトークレッスン講師をしている五戸です(2017年2月、日本コロムビア会議室で)

だから「声を作るな」

 難しい話はここまで! 何が言いたいかと言うと、だから「声を作らないで!」と指導しているということなんです。本番、たとえば自己紹介で「はじめまして! ミキティって呼んでください♡よろしくね♪」なんてことを、ノドをキュッと絞めたような声で言ってしまう子は実に多い。私もそうでした。中継コーナーだと普通の声でできるのに、ナレーションだと同じ声でできない…当時はずいぶん悩みました。

 「こういうキャラクターを演出したいから」という理由で、本来の声じゃない声を出す場合もあります。たとえばりゅうちぇるさんは、「やだー」と言う声を高く出すことで、彼のかわいい性格を演出できます。声優さんみたいに声を使い分けることもあります。それが良いときも多々あるのを注意書きしつつ、いま初めて声について考えた、という方にはぜひ、「普段」と「本番」で声を変えない、というポイントを押さえていただけると、出しやすい声=理想の声に近づけると思います。

秘伝の発声トレーニング

 レッスンでは、その子が普通にしゃべっているときと、本番でしゃべっているときを繋げて言ってもらうようにしています。

 たとえば「私、高校の体育の授業を仕事で休みすぎちゃって、今度持久走の補習を受けるんです、ヤダな~」と話しているときは楽に声を出せているのに、自己紹介で「ミキティって呼んでください♪」と言うときは作った声で苦しそうな子がいるとします。そういう子には、普段と本番を繋げて「私、今度持久走の補習を受けるんです、ミキティって呼んでください」と練習します。次は「ミキティって呼んでください」だけをまた言ってもらう。また作った声に戻ってしまったら、もう一度持久走の話からしてもらう。こんな感じです。

 皆さまも、プレゼンのときの声と普段の声、乾杯の発声のときと普段の声、なるべく変えないように、ちょっと意識してみてください。理想の声に少しずつ近づいていけると思います!(次回はトーク編13「話し言葉と書き言葉」です)

本日のごのへの・ご・ろ・く

声は人なり!!