市川猿之助のスーパー歌舞伎2「ワンピース」がさらに進化していた。10月の初日直後に見ているが、11月に入って、芸術祭審査で再び観劇した。初見の時にはなかった新しい演出がいくつか加わり、より観客を巻き込みつつ、「仲間」「絆」「信頼」「自由」というテーマを鮮明にした舞台になっていた。

 その中で、ゾロ、ボン・クレー、スクアードの3役を演じた坂東巳之助(26)に注目した。巳之助は今年2月、59歳で亡くなった坂東三津五郎さんの長男だが、本格的に歌舞伎修業を始めたのは18歳の時だった。父と母で女優の寿ひずるが8歳の時に離婚し、母に引き取られたこともあって、歌舞伎とは微妙な関係にあった。高校時代はロックバンドにのめり込み、中ぶらりんの状態で、高校も中退している。そんな時、自分には歌舞伎しかないと、父の門をたたき、本格的な修行の日々が始まった。

 三津五郎さんに会って、息子のことを聞くと、いつも「まだまだダメですよ」と厳しい言葉を口にしていた。その言葉通り、我々が見ていても、未熟さが分かり、本人ももがき苦しんでいた。しかし、ここ2年前からの成長ぶりには目を見張った。昨年の浅草歌舞伎で猿之助と共演した「上州土産百両首」で演じた牙次郎役には友を思う気持ちにあふれ、猿之助に負けない存在感があった。腕を挙げたと思った。三津五郎もその話をすると、うれしそうだった。父もわが子の演技に手ごたえを感じていた。

 しかし、息子のさらなる成長を見ることなく、亡くなった。父の死後も、巳之助の奮闘は続き、その結果が「ワンピース」での弾けっぷりだった。来年の浅草歌舞伎で歌舞伎十八番「毛抜」の粂寺弾正に初挑戦することが決まっている。本格的な歌舞伎修行を始めて、まだ10年足らずだが、「大和屋」のDNAはしっかりと引き継がれている。